2-3 ええ、守りますともさ【てんゆう、柳生烏丸ちゃんの個性を想う】

文字数 1,727文字


「貴女は勉強家と思うのでご存知でしょうが、古代ローマはキリスト教の保護国だったでしょ」

「西暦313年にコンスタンティヌス1世とリキニウス帝により公認されましたね。いわゆるミラノ勅令。ですから昔の我らがローマ皇帝に祈りを捧げたように、信仰生活の基盤たる平和、日の本が安寧を守るべく日々重労働をこなしてくださる尊い方、今上陛下に祈りを捧げるのが日本正教会であって……」

「そんな基礎的な知識もなしに、正教徒を右翼クリスチャンあつかいする(やから)が大勢いるということです」

 可愛らしいほどのキョトンとした顔、それが哀れだ。

「? わけがわかりません。そんな人々がいるとしたら、彼らは『王族に敬意を示すこと即右翼化』とそんな莫迦な思い込みに囚われているのですか。だとしたら、そんな思考は論理的ではないし歴史的にも無知がすぎます」

 『思慮の足りない者は、病が深刻なほど自らを賢いと判断しがち』ということは今はだまっていよう。さじ加減がなかなかに難しい。大鳳の気持ちを燕雀はしらず、ゆえに無論、鳳凰とて小鳥の気持ちを推し量るのは困難だということか。仙なる聖女になるかもしれぬ弟子、なかなかに心が踊る心地もあり、複雑な気持ちに翻弄されそうだ。

「古代ローマこそが我らの教団を保護していたということを重要視しない人、けっこう多いんですよ。むしろその前の、ネロ帝の治世から始まる弾圧の印象ばかりが強くなってるのが昨今というか」

「たしかに我が国でも『キリスト教のせいで西ローマが崩壊した』とかいう俗説もまかり通っている有り様ですね。あの物語は『小説 』だって女性作者自身がいってるのに……カエサルが格好いいのは良いんだけど」

 やはり我が弟子は、なかなかの読書家であるようだ。古典が中心の私と違って、昨今の物語を読み漁るのもまた良し。このような読者人が新しい才能を育ててゆくのだろう。

「あとね……いまロシアの大統領が強権を行使しているでしょう、そして彼は正教の復権を後押ししている。それらのことにより正教自体が右翼っぽく見られてるわけです」

「え?、私はロシアの大地で暮らしたことがありますが、あの土地は強大な力でないと治めきれるはずがない、体験による実感で分からずとも歴史を学べば明らかだ。そもそも、あそこは正教の中心地というわけではありませんよ。一番強国というだけで」

 柳生烏丸(やぎゅうからすまる)という名の女仙によるこのモノの言いよう、あなおそろしや。これまででどれほどの 、酷い誤解を受け続けてきたのやら

 彼女は独裁を積極的に肯定しているわけではないし、できうる限りは優しさにそった改善を望み続けている。そんな心情も優しい心根も、どのような人物であれ素直な気持ちで、綺麗に艶めく黒い瞳さえ覗きこめば分かろうもの。ただあの国の現状では不可能であることを、この女性は知っている。そして『その人その組織なりに出来うることを成し遂げんと努力している人々には悪性を見出さない』という良識を大切にしているまで。ただそれだけのこと。

 そんな誠実を理解しようとさえしない【汚濁のごとき傲慢】【高慢なる怠惰】。結果として善性を装うしかない隠されがちな悪性に、とり憑かれた人間が今の世においてどれほど多いか。……ウンザリした気持ちになってきた。

「私も、このまえの家庭内暴力の歯止めをなくす事態になりかねない法案は、絶対に許したくはないですが」

 そうだよね、君は強い女でもあるし、優しい人でもある。

「ただですね。あの土地は男性の方が文字どおりに生き難い土地というか。成人の男女人口比ごぞんじですか。というか欧米は日本と比べればどこも父権的です。日本は『母性社会日本の病理』って本に分析があるぐらい『母』が強大でありまして、」

 ああたしかに日本で『聖母マリアの恩寵』を主張しすぎると、酷いというかヤバいかもしれない。さきほどのクサナギの剣の話題の時に聞くこととなった、日本の土着神を産みまくった存在のことを思う。我らが回心対象ヤマタノオロチを屠った英雄スサノオが執着しまくった太母イザナミ、ほんとなにやら不穏な話で……。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み