3-8「宗教と宗教」考(モスクにて⑤ )【柳生烏丸 視点】

文字数 1,215文字

それこそ、子どもみたいな言い争いに終始してしまう(やから)は、仙界でも(たま)に見かける。まぁ分かった上で、その韜晦(とうかい)を楽しんでる巧者が多いんだろうが。

「ですよね、だから、どちらがよりそうとかではなく、自覚することが大事なんです。そこらへんを考慮に入れて割り引いて考えることができるかどうかで道が分かれるというか。『そうである』『そうではない』というのもそうなんですが、それこそ『普通に比べて』とか『社会生活を行うにあたって支障のない程度かどうか』てなぐあいの話ですよ。それこそ仙人たるわれらの基礎教養、陰陽論にもかかわる話です」

そこで一息ついて師匠、

「完全な陽も完全な陰もなし、陽中に陰あり陰中に陽あり。善悪もまた同じ。むしろ極まれば転ずる、ゆめゆめ用心おこたるな」

朗々と(こと)あげるは、(せん)辿(たど)りつく旅路にて忘れてはならぬこと。これまでの口上に感激さえ覚え、だけど、さきほどのイスラムのアイーシャを話した際、彼の表情に浮かんだ影がわすれがたく、わきおこる不安を誤魔化すかのように、私の口は天佑さんへの信望を表明する。

「あなたはすごい、私のように運命に探されるままに、すがりついたような回心体験しかもたない、ハンパものは、話を聞くだけで開眼してしかりだ」

「あ、そうでもなく。むしろ……いや、やめておきましょう」

「ん?、なんでしょうぜひともお話し聞かせていただきたく」

「どこに大鳳(たいほう)いるかなど、なかなか分かるものでは」

なぜかジッと見つめられる。

「?、?、?」

なんだろうこの視線。なにを言っているのだろう。意味が分からないので少し戸惑(とまど)う。だけど先ほどまでの胸の不安はいい具合に溶けた。気分がスゴく楽になる。

「いいですね。良い感じに自覚がないところが、実に好ましい。そこが貴女のスゴく素敵なところなのですよ。是非とも大罪の一、を遠ざけるように」

カトリックの規定する七つの大罪で、第一のもののされるのは……たしか。

「それは高慢(プライド)ですか。カトリックでいうところの七つの大罪、第一であるところの」

「ですね。高慢(こうまん)傲慢(ごうまん)と訳してもいいですね。それと嫉妬(しっと)憤怒(ふんぬ)怠惰(たいだ)強欲(ごうよく)暴食(ぼうしょく)色欲(しきよく)。これら七つのうちどれがより醜悪とみるかは意見の分かれるところと思いますが、個人的には強すぎる人間の高慢傲慢、ようするに他への見下しにつながる形の、度を超えた自信過剰こそが破滅へと直結していると思いますので」

暴食も入るというのが現代人にはピンとこないかもしれないが、太るとか肥満などという話ではなく、過去の時代における食料事情を考えるとな。江戸時代に度々起こった飢饉を知る者としては、むべなるかな。いかにももっともであるなぁ。
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登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

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