ウブメ 《作者注◉京極○彦『姑獲○の夏』を読んでくだせい。マンガ版も良いよ!》
文字数 2,517文字
あ、烏丸さん。え、明日は決行の日なのに、まだ起きて
え、もう十二分に睡眠はとった。で、すこし興奮していて、でも今から修行すると力が入りすぎて、疲れが残ってしまいそう、だと。そして私に聞きたいことがあるから、深夜の会話でもして時間を潰したい、ときましたか
いいですよ、私の深いところに踏み入りたいってことですね、わかってますか
よござんしょ、秘密ってわけでもありませんでね、なんで私が、ロクでもない男とばかり縁ができる妖 の理 をもつのかってことを聞きたいのですわね。ここまで、この女怪の芯に近づけば、より仲良くなれるってもんでしょうから
まぁ私は中華悪鬼である姑獲鳥 なわけであるのですよ。 でも、ウブメなんて発音で呼ばれてます、日本の読み方ですね
ええ、そんなんですよ烏丸 さん、天佑さんって昔から日本びいきだったんですよ
それこそ妖怪なんて存在は、人間たちに、どう思われるかってことで在りように影響がでるでしょう。それでなにやら姑獲鳥 って日本妖怪、なにか最近、それなりに愛好家の間では有名どころだそうで。まぁそういうわけで、どんどんと混ざっていくわけですよ、別の象徴が重なる、その違う背景が溶け合っていくといいますか
だから、この私は姑獲鳥 でもありウブメでもあるわけなのですね。中華では夜行遊女、天帝少女とも呼ばれてます。これらの名乗りの方が美しいかもしれませんね、まぁそういうわけで、今は中華妖怪として召喚、呼び出されているから、羽毛を纏ったこの姿をとっていますけどね 、中身のほうは日本女怪の在り様も混在しているわけです。
そうです、今の私の何よりも大事な願望は、我が子を一人前に育てきることです
姑獲鳥 の私は、子どもを攫う、そして養女にする妖怪です。そして日本のウブメは産む女と書いたりします。お産で死んだ女の無念が形になった妖 だという。そして昔話とかで、その子どもを人間に預けたりする。和も中華も要素、両方、この身の内に息づいています。
そうですよね。子どもを攫うと子どもを預けるでは水と油、どうしてこんな真逆の妖怪同士の名が寄り添ったのかは不思議に思ってしまいますよね。ええまぁ、言葉を濁さずにぶっちゃけてしまえば……
子どもをさらって子どもをうませる、そして小さな身体での無理な出産で死ぬ、そんな状況で我が子を残し逝くしかない、その怨念。姑獲鳥でありウブメな私は、そんな感情の塊です
童養媳 っていう風習がありまして、息子の将来の嫁という名目で、子どもを買ってくるというね。まぁ貧しい時代であるならば少しは弁護できますよ、飢え死にしかけた女の子をひろって育てて、ってね。でもクソ野郎もクソ女郎、そんなヤツらは豊かな時代にだって、まぁいるわけですし。
烏丸さんのしってる戦国時代や江戸時代にも似たようなことはありませんでしたか。いいえ、現代の豊かの国であったとしても、そんな実体のもとにムリやり作り上げられた夫婦なんてのも、探せばけっこうみつかったりするのではありませんの。許嫁の悪用とでもいおうか、まぁロクでもない話ですね。
だから私という妖怪は『ロクでもない男としか縁がない』という属性をもつ。そもそもまだ嫁として扱われるだけでもマシな状況というもの、どの時代でも戦場で、貧しさに包まれた土地で、少年少女がどんな風にあつかわれているかっていったら、……あら、あらあらあらあら。
ごめんなさいねぇ、こんなに泣いてくれるなんて、思いもしないで
すこしキツすぎましたかね、私の話、貴女は良い人に育てられたのでしょうね。それこそ私の伝承を形作る、数限りない女性の苦しみなんかに決して触れることのないように、大事に大事に
天佑さんが、この前いったとうりと私も思いますよ。貴女のご両親はとっても素的 な方であったと思います。
なぜ私がカトリックを選ぶことになったって?
とうぜんじゃあ、ありませんか。両者の同意を婚姻の要諦にしてくれるなんて、私みたいな存在にとって、それこそ福音でございましょう。
◉ ○ ◉
可愛いこと可愛いこと。まぁ子犬みたい
まるで純真、ほんとに純粋、いい気分で明日を迎えてくれるならなにより。
……もう聞こえませんよね。烏丸さん、声が届く範囲から外れてくれたかな?
あんな人のまえでは、今から口にでてしまう独り言なんて、耳に入れるわけにはいけない
どうしても、どうしても、こんな独り言をいいたくなっちゃう。愚痴ですよねぇ。
まぁ色々、実態をしってしまいますとねぇ
離婚を認められないからこその、同意の重視だったわけでしてね
まぁ嫌な考え方で今風の言い方をいたしますと、なにが起こっても当事者の自己責任ってこと
『あなたが選んだのだから』『あなたが同意したからには』……ってね
そして……肉体関係の成立を婚姻の条件にしてしまうなんて、一部の男どもの悪どさを知らない誰かが決めてしまったんでしょうねぇ。そんなの『ムリやり』『矯正結婚』『一生拘束』の最悪連鎖が成立しちゃうじゃありませんか
ああ、世の動きに疎そうだったもの
あの一件はしらないのねぇ、烏丸さん
あの事件の数々の発覚
ルターさんとやらの引き起こした危機、それを軽く凌駕する現代カトリックのドス黒い闇
そりゃあね、傷ついたなんてもんじゃなかったです。つらかった
でもね、そうはいっても私なんて『にわか』じゃあありませんか
それこそ、彼にとっての、たとえ極一部の神父がやらかしたこととはいえ、どれほど……どれだけ
神様、聞いてくださいますか
それこそ天佑さんにも、誰にも、いまだ言えないのですが
におうのです
明日、忍び入ろうとするこの建物に
私たち『姑獲鳥 の悲劇』と似た、えげつない地獄 の気配が漂っていると
え、もう十二分に睡眠はとった。で、すこし興奮していて、でも今から修行すると力が入りすぎて、疲れが残ってしまいそう、だと。そして私に聞きたいことがあるから、深夜の会話でもして時間を潰したい、ときましたか
いいですよ、私の深いところに踏み入りたいってことですね、わかってますか
よござんしょ、秘密ってわけでもありませんでね、なんで私が、ロクでもない男とばかり縁ができる
まぁ私は中華悪鬼である
ええ、そんなんですよ
それこそ妖怪なんて存在は、人間たちに、どう思われるかってことで在りように影響がでるでしょう。それでなにやら
だから、この私は
そうです、今の私の何よりも大事な願望は、我が子を一人前に育てきることです
そうですよね。子どもを攫うと子どもを預けるでは水と油、どうしてこんな真逆の妖怪同士の名が寄り添ったのかは不思議に思ってしまいますよね。ええまぁ、言葉を濁さずにぶっちゃけてしまえば……
子どもをさらって子どもをうませる、そして小さな身体での無理な出産で死ぬ、そんな状況で我が子を残し逝くしかない、その怨念。姑獲鳥でありウブメな私は、そんな感情の塊です
烏丸さんのしってる戦国時代や江戸時代にも似たようなことはありませんでしたか。いいえ、現代の豊かの国であったとしても、そんな実体のもとにムリやり作り上げられた夫婦なんてのも、探せばけっこうみつかったりするのではありませんの。許嫁の悪用とでもいおうか、まぁロクでもない話ですね。
だから私という妖怪は『ロクでもない男としか縁がない』という属性をもつ。そもそもまだ嫁として扱われるだけでもマシな状況というもの、どの時代でも戦場で、貧しさに包まれた土地で、少年少女がどんな風にあつかわれているかっていったら、……あら、あらあらあらあら。
ごめんなさいねぇ、こんなに泣いてくれるなんて、思いもしないで
すこしキツすぎましたかね、私の話、貴女は良い人に育てられたのでしょうね。それこそ私の伝承を形作る、数限りない女性の苦しみなんかに決して触れることのないように、大事に大事に
天佑さんが、この前いったとうりと私も思いますよ。貴女のご両親はとっても
なぜ私がカトリックを選ぶことになったって?
とうぜんじゃあ、ありませんか。両者の同意を婚姻の要諦にしてくれるなんて、私みたいな存在にとって、それこそ福音でございましょう。
◉ ○ ◉
可愛いこと可愛いこと。まぁ子犬みたい
まるで純真、ほんとに純粋、いい気分で明日を迎えてくれるならなにより。
……もう聞こえませんよね。烏丸さん、声が届く範囲から外れてくれたかな?
あんな人のまえでは、今から口にでてしまう独り言なんて、耳に入れるわけにはいけない
どうしても、どうしても、こんな独り言をいいたくなっちゃう。愚痴ですよねぇ。
まぁ色々、実態をしってしまいますとねぇ
離婚を認められないからこその、同意の重視だったわけでしてね
まぁ嫌な考え方で今風の言い方をいたしますと、なにが起こっても当事者の自己責任ってこと
『あなたが選んだのだから』『あなたが同意したからには』……ってね
そして……肉体関係の成立を婚姻の条件にしてしまうなんて、一部の男どもの悪どさを知らない誰かが決めてしまったんでしょうねぇ。そんなの『ムリやり』『矯正結婚』『一生拘束』の最悪連鎖が成立しちゃうじゃありませんか
ああ、世の動きに疎そうだったもの
あの一件はしらないのねぇ、烏丸さん
あの事件の数々の発覚
ルターさんとやらの引き起こした危機、それを軽く凌駕する現代カトリックのドス黒い闇
そりゃあね、傷ついたなんてもんじゃなかったです。つらかった
でもね、そうはいっても私なんて『にわか』じゃあありませんか
それこそ、彼にとっての、たとえ極一部の神父がやらかしたこととはいえ、どれほど……どれだけ
神様、聞いてくださいますか
それこそ天佑さんにも、誰にも、いまだ言えないのですが
におうのです
明日、忍び入ろうとするこの建物に
私たち『