1-7 あせらないこと、けっきょくはソレ【やぎゅうからすまる、剣術深奥】
文字数 1,308文字
状況確認から刹那の間も置かずに
神速を目指すよに、この身体が動く。
私が敵に襲いかかる。
群がる小さき獣たちが文字どおりに蹴散らされた
聖天大聖 孫悟空の写し身であろうとも、
複製は繰り返すたびに劣化していくもの
分身の分身など、たとえ50匹群がろうが
我が突進、
打ち手が無防備なときなどなく
そしてこの身こそは柳生剣士、
新陰流の真価は『後の先』にこそ
迅速をもって距離を詰めた、目前には
こちらに振り向こうと、焦る分け身の孫悟空
我が手に愛刀、斬り刻むは今。
我が
肉骨のうちなる
つまりは、
そのままに刀を振りかぶり、
中心を
我が剣術、芯なる要はそこにあり!
そうして私により猿王 孫悟空の首は刎ねられた。
劣化した複製にすぎぬとはいえ、
大伝説そのものに連なる仙を仕留めた
成した我が心の情動はすさまじく、
周囲は明滅しているかのよう。
時に対する認識が拡大、
一刹那が一刻に引き伸ばされるような体感。
それは科学で示せば化学で説明すれば、
脳内に満ちた興奮物質が引き起こす現象にすぎずとも
仙とはいえ、
なかなかに平常をとりもどせるような状態ではない
だが、だからといって
残心を忘れてしまう殺害など真の剣術にはありえない
反撃の根は、徹底的に
跳ね飛びつつある頭を、唐竹に割り
返す斬り上げで、股下から腹を
そのまま手のひらの指を断ち
鍛えあげた足の健をえぐり
ひたすらに必殺
もしくは戦闘能力を奪う、
そんな
……ふと気づけば
切り裂かれた獣毛一握りほど、
ふわふわと前に浮く、ゆらゆらと宙に舞う。
そう、なにやら虚無的でボンヤリ、
ほんのりと狂気が香るような
そんな光景に包まれながら一人、
刀を振り回している私がいた。
一人舞台に立って殺陣を披露しているような
そんなことを続けても仕方ないので
警戒しつつ最後まで残心を忘れずに、
愛刀を
幻術に包まれていたようには感じられない
なにもかも、
仙縁さえも斬り
蹴散らした『分身の分け身』『複製の複製』
そんなチビ猿どもも獣毛へと還ったようだ
つまりは聖天大聖 孫悟空からの刺客を
我が手この力をもって、亡き者にしたということで
振り向く、
『成し遂げたのだから、髪を撫でて欲しい』
それほどまでのことを望んでしまった
我ながら犬みたいだ
武術の深奥に近いのは猫のほうだというのに
それにしたって初戦は終わり
滅殺完了、状況良好。