3-2「宗教と国」考(教会にて②)【柳生烏丸 視点】

文字数 1,421文字

「私も隣で祈らせてもらいます」

 側にいるだけで心安らぐ愛する男性(ひと)。そんな存在が、私の(しつら)えた急造の祭壇の前で、多分この土地の安寧を願い祈る。その行為が一段落を終えた風に思えた機をみて声をかけてみた。かけずにはいられなかった。

「天佑さん、子どものような質問をしても良いですか。『青くさい』と揶揄されても仕方ない、そんな問いです」

「どうぞ。私に答えられるものであるならば、真摯に答えを共に求めましょう」

 では、こちらも言葉を飾らずに、真摯に負けずに真剣に言葉を。

「なぜ、大多数の民が博愛を奉じる神の教えを信じている国で、このような平和の破壊が起きてしまうのでしょうか」

 驚きに似た戸惑い、その奥の知性による光をその瞳に、想い人は私に言の葉を返した。

「厳しい言い方をしてしまえば、真の信仰に至らぬ者が一定量を超えたということかもしれません。国内外で巻き起こった困難災厄に対抗できるほどに敬虔で、真理の芯を掴んでいる信者の人数が足りなかった」

 返ってきた答えは意外なもので。それは、あんまりといえば、あんまりな言い草ではないかと。

「天佑さん、いかにカトリックがキリスト教最大教派であるとはいえ、そのものの言いようは」

「?。……ああ誤解です。そういうことを言いたいのではありません」

 そうだった。この人はその類いの人間ではないのだった。理解しているはずなのに、信じているのに違いないのに早合点してしまうのは、それこそ理想を求め過ぎてしまう恋のゆえか。話の続きに耳をすませる。

「ここでいうところの『真の信仰』というのはキリスト教の宗派に限定しているわけではないことを、我が弟子である貴女には理解してもらえるはずだと思います」

 そう、この人は他文化他宗教の価値を見定めることのできる信仰者だ。

「もちろん普遍(カトリック)を主張するぐらいですからカトリック仙人をなのる者として、うちの宗派がどこよりも尊い教えを伝えているという自負くらいはありますがね。まぁ考えてみてください。世界的にみたら私が所属しているキリスト教団体は世界最強最大の宗教組織かもしれませんが、国や地域によっては少数派マイノリティである場所も多く、周りからの迫害を警戒しなきゃならない場合も珍しくないことは、普通に理解できますよね」

「そのことは私も日本人キリスト教徒 柳生烏丸として肌に感じることしきりです、はい。というか困った人も多いですよね」

「困った人というと……?」

「己の内では勇者のつもり……とでもいうか、世界強者であるはずの横暴な権威と対峙対抗している自意識なんですが、住まう場所文化圏では、どう考えてもそんな彼女彼らに非難されている方が弱者であり、結果として、その活動は弱い者イジメとしてしか働いていない。まぁそんな事例の加害当事者達です」

 まだ欧米であるなら強者に立ち向かう姿としての価値もあるかもしれないが、亜細亜(アジア)でやっても格好がつくはずもない、アカンあれな態度である。

「ああ、その(たぐ)いの有象無象の話ですが。日本に限った話ではありませんが……というか質問の問題についても注目すべき点かもしれませんね。この土地で起こり続けている良くないことも、そんなアレコレに彩られた不幸としての側面も強いのでは、と思えるのです、門外漢の勝手な感想である恐れはありますが」



ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

柳生烏丸(やぎゅう からすまる)


ヒロイン


柳生剣士でありながら女仙


キリスト教 正教会信徒


詳細は後日

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み