セリフを生かす技

文字数 605文字

 さて、昼飯をさっさと啜りこんで、午後の作業である。
 午前の作業がスムーズに進んだので、午後もこんなもんかとタカをくくっていたが、世の中そんなに甘いもんではない。
 僕の手は、すっかり止まってしまったのだった。
ハイそこ書き直し!
1シーン書き直しなんですけど……。
書き終わるまで待ってやったの。アンタのセリフ尊重して。
 原因は、かすみセンパイのダメ出しが異様に多いことだった。1シーン書いてはダメ出し、削除して書き直し……
 ダメ出しで特に多かったのが、肝心のセリフがまずいことだった。話の展開は、頭の中では分かっている。だが、分かっていてもなかなか書けるものではない。
セリフが長い! 対話は必要最小限!

 時間が経つにつれて、かすみセンパイはヒートアップしていった。

 部活の将来と大会の成功を願うかすみセンパイの気持ちを考えれば、どれだけ罵声を浴びても仕方ないと思えてくる。僕は言われるままに何度でもセリフを書き直した。

説得は文法的に、感情は非文法的に!
殴られると「どこが」よりも「痛い!」が先に来るものなの。
悠里はリアルにつくられてるんでしょ? 観が好きになったら「バッテリーが切れた」なんて言わないんじゃない?
母親が真顔で説得しても、観が聞くわけないでしょ……。
 かすみセンパイのダメ出しに辟易し、セリフに呻吟しながら書き進めていく。それでも不思議なもので、ある程度書くと登場人物が自然に喋りだすのが感じられた。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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