最後の戦い

文字数 576文字

起こすしかない、かすみセンパイを……。
 何時には帰る、と返すのがオフクロとの約束なのだが、今回はそれをしなかった。後で絶対に追及されるが、「忘れていた」とシラを切り通すしかない。
 できるわけがないのだ。いつ完成するか分からないし、台本が完成しないと帰れないし、このまま帰ったら完成できない。
行くぞ、真崎周作!
 両の拳をぎゅっと握って立ち上がった、その時だった。
う~ん……。
 やった! 起きてくれる!
 そう思って振り向くと、事態は更に悪くなっていた。

ん……あ! はあ……はあ……はあ……。

あ……、ぐっ! んふ、うう……。

……センパイが苦しげに喘いでいた。
 悪い夢でも見ているのだろうか、頭をじたばたと左右に振る。その度に、艶やかな黒髪が白いシーツの上に乱れ、こぼれた。
 僕は息をおおきく吸い込んだ。かすみセンパイの部屋を満たす甘い空気がすっと肺を満たす。
 理性! 僕はこの二文字を眼前にイメージした。
 部活で習った鍛錬法だ。実際に見えるわけではない。だが、もしかしたらないかもしれないものが、そこに確かな物体として存在する、と僕は信じることができた。
……よし。

 僕はベッドに歩み寄った。

 かすみセンパイは四肢を大きく広げ、シーツに横たわっている。黒髪が放射状に広がっている。

 素肌を剥き出しにしたしなやかな腕は、手を伸ばしたすぐそこにある。

センパイ……。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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