衝撃の一言

文字数 723文字

そう、人の話は最後まで……電車来ます。

 複雑なジグソーパズルの最後のピースがはまって、僕もセンパイをからかうくらいの余裕を感じていた。

 言い負かされて、センパイは恥ずかしそうにうつむいた。

 やってきた電車に乗り込むと、結構混んでいた。並んで吊革につかまると、至近距離でかすみセンパイは、すうっと息を吸い込んで言った。

ここで肝心なことを相談するんだけど。
 やっぱり、うつむいたままだった。顔が赤かった。冷房が利いているのに。
 センパイはしばらく黙ったままだった。僕も黙って次の言葉を待った。
 無言で電車に揺られ続けているうちに、いくつもの駅が僕たちの前を通り過ぎた。その度に、目の前に座る乗客は入れ替わった。
明日……。
 やがて、かすみセンパイは思い切ったように口を開いた。ささやき声が、ためらいがちに聞こえる。
アタシの家に来ない? 両親とも朝まで帰ってこないの。それも夜遅く……。
え……!
 僕の心臓がドキっと鳴った。かすみセンパイの口から、まさかそんなベタなお誘いの言葉が……。え? これ、ひょっとすると? ひょっとすると?
最後の詰め! 誤解しないで!

 僕をキッと睨む目つきに、悩ましい不届きな妄想は粉砕された。

 そりゃ、そうだよな……。

 何でも両親共に観劇が趣味で、かなり遠方のマイナー劇団の公演まで泊りがけで見に行くことがあるという。
 小学生までは一緒に旅行していたセンパイも、中学生の頃は吹奏楽部に入って練習に忙しくなり、一緒に行くことはなくなった。
 留守を守るうちに、たいていの家事はできるようになったのだという。


 それでも、このとき僕は、「もしかして手料理ぐらいご馳走になれるかな」などという、様々な意味で「甘い」期待をしていたのだった。

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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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