最大の救いにして最大の敵

文字数 538文字

 僕の伸ばした手は空を切った。センパイの手がするっと下に動いたからである。
え……ちょっとそれ、え? まさか?
その時、携帯が再び鳴った。
……うるさいオフクロ、メシいらねえって言ったろ!
 両親にそんな暴言など吐いたことなどないが、本当に電話に出ていたらそう言っていたろう。
 携帯を取ろうとしていた僕の手は、止まっていた。
手……手が、かすみセンパイの手が!
 かすみセンパイの手が、タンクトップの裾にかかっていた。
 もがいたせいか、体が火照っているのだろう。よほど暑いのか、その手はじりじりとタンクトップをたくし上げていた。
ふう……はあ……あ、う……!
だ、ダメだろ、それは……。
 見てはいけない。だが、体が言うことをきかない。
……そうだ、携帯鳴っているんだからそれで眼をさましてくれないかな!
 だが、頭の片隅で理性がそう叫んだ瞬間、何事もなかったかのように携帯電話の電源は手の中で切られていた。
 センパイの様子をうかがう。
……ん、ん、あ……。
寝てる、よな?

まだ、眼を覚ます気配はない……。

そのとき、パソコンのハードが仕事を急かすようにカカカと鳴った。

いかん! 何考えてんだコラ!
 ぶんぶんと頭を振ると、再びセンパイの手はベッドの下へと垂れ下がり、タンクトップは素肌を晒す危機を免れた。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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