センパイに逃げ道ふさがれた

文字数 572文字

確かに、自分から「やる」と手を挙げなかった連中に、アンタを非難する資格はない。

 最近知ったのだが、ここの演劇部で台本を書くということには、たいへんな覚悟がいるらしい。
 なにしろ、担当者は台本を書いてくるそばから、完成まで部員全員の罵詈雑言を浴びせられるというのである。
 大会を勝ちあがるためには、それくらいしなければならないのだろう。
 そう考えると、誰も名乗り出なかったのも無理はない。
 早く帰ってアニメ見たいばっかりに何も考えず手を挙げた僕がバカだったのだ。
 オヤジから聞いた処世術の使い方を完全に間違えた。

「人がやらないことはサッサと引き受けて、会議を回せ」……。

 それは、自分ができる仕事に限られるってことだ。

センパイ……。
だけどな、引き受けた以上、アンタには責任ってもんがある。

 それだ。

 フォローの一言にちょっと反省したんだけど、それは僕の判断の甘さについてであって、責任の問題じゃない。

(……コイツは100tの重りだ、首輪の先に鎖でつないである、アレな)
 その責任は、僕には重過ぎる。だが、僕はその責任問題を解決する方法を一つだけ準備してきていた。
 思い切って、断ってしまうのだ。
あの。
口を開きかけたとき、かすみセンパイが僕の眉間に人差し指を突きつけた。
逃げるなよ。アンタが書いたヤツしか使わない。
 その気迫には、思わず息を呑んだ。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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