そして物語は動き出す

文字数 618文字

これで登場人物が動き出すわ。
これだけで?
 そんなに簡単に登場人物が動かせるなんて信じられなかった。
 だが、かすみセンパイの一言で、僕の頭の中にストーリーがするすると浮かんできたのである。
女の子にはオクテでも、不思議なことが起これば思い切って追いかけようとするんじゃない?
悠里がどこから学校に通ってるかとか……。
 それそれ、とかすみセンパイは僕に指鉄砲をつきつけて補足する。
悠里は精巧に出来ているけど、なるべく人とは接触したくない。
だけど、小菅は悠里を口説けとけしかける。
……。
 僕のイメージの中で、登場人物同士の行動がつながってきた。さらに僕は畳み掛ける。
あきらは悠里を追いかける観を責めるけど、観は理由を言えない。
かすみセンパイの目が、黒縁メガネの向こうで輝いていた。自分からアイデアを出してくる。

先生はキャリア志向が強くて打算的だけど、つい心配して自分で止めに行くほど、観はムチャをする。

ムチャな観を父親は叱るが効果なし。
逆に母親は叱らずにムチャを止める!
 僕が言葉を継げば、センパイも切り返してくる。やがて、僕は手を叩いた。
あ……。
 かすみセンパイが立ち上がって僕の頭に手を置く。
できたじゃない。
 見下ろす眼差しはやっぱり上から目線だったが、その顔は笑っていた。
 連休まであと3日。
蛇口の水が出ないいいいいっ!
 体育会の男子部員たちが騒いでいた。だが、窓の外では初夏の強い風に桜の木がざわめいている。そんな声は気にもならない……。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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