センパイの遠い眼差し

文字数 640文字

 僕は再び座らされ、センパイの説明が再開された。
 この歌は、江戸時代後期に活躍した頼山陽という学者が、弟子に漢詩の構成を教えるのに使った戯れ歌だという。


  起 題材の提示
  承 内容を発展させる
  転 話題を別の視点から説明する
  結 全体に共通するテーマを示す

詩ってさ……。
 かすみセンパイは、こめかみのあたりをぽりぽり掻きながら窓の外を眺めながら言った。
はいはい、何でしょう?
 そうは言ったけど、実はちょっとドキっとしていた。今まで頭からガミガミやられていたのに、急にそんな顔をされたら……何かこう、胸が締め付けられるような気がする。
物事とか出来事を言葉で描写するもんだから、これでいいわけ。題材を詳しく説明してから、ちょっと違う角度から見て、全体はこうだよってまとめてやるの。
 その曲線くっきりしたボディの割に、色気のないことを言ってくれてげんなりした。でも、視線を追ってみると、空を見つめている。日が暮れかかっているとはいえ、空はまだまだ明るい。
僕、台本の話してるんですけど。

 ちょっとひねくれたことを言ってみた。この話が延々と続くのかと思うと、正直うんざりだったのだ。それに、人の努力を完全否定するんだったら、どう直せばいいのかってことぐらいは教えてくれてもいいんじゃないかという気がした。

 でも、センパイはやっぱり僕を見てはくれなかった。

起承転結で作った上演見せられて寝たことが何度あったか。なかなか話が本題に入んないんだもん。
 遠い目をして言うことじゃない気がする。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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