ツカミには葛藤を

文字数 547文字

 僕が話すあらすじを確認したセンパイは言った。
いちばん設定をブチこまなけりゃいけないとこだからね。アンタの説明がくどいのは仕方ない。問題は、どのシーンでこれを説明しきるか、ってこと。
廃屋を覗く観と、悠里のやりとり……ですか?
真崎!
 背中をバン、と叩かれて、僕はうろたえた。
……まずいですか?
 かすみセンパイは、片目を閉じて親指を立てる。
いいセンスしてるじゃない。何でそう思った?
中を覗こうとして悠里に捕まる観の姿を想像したら、なんか面白かったんで……。
それでいい。
 かすみセンパイは満足気に頷いた。
え……そうなんですか……ああ、はい。
芝居はね、葛藤とその解決で進むの。覗きまでの事情は、捕まった観が話すことにすればいい。
 そこで、僕はちょっと考え込んだ。
そんなに簡単に喋るでしょうか?
廃屋に怪力で引きずり込まれて、周りには怪しげなメカの山。そこで「吐け」とやられたら黙ってられる?
 悪戯っぽく笑ったかすみセンパイに、僕は即答した。
吐きます。

ハイ、廃屋の舞台装置決定。怪しげなメカの山。

 かすみセンパイはポンと手を叩く。

 こうして、連休初日に最初のシーンの構想が固まった。

私のことは誰にも言わないで。
 悠里のセリフの後に、彼女の設定を花道でのナレーションで入れて、次のシーンに入ることになる……。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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