ようやく物語が紡がれる

文字数 700文字

 パソコンの画面の中で、コート姿の羽佐間観が語り始めた。事件が起こってから何年も経った後の観だ。
 花道に下ろした旅行カバンに腰をかける。旅の思い出。出会った人々。旅に出るまでの生活。そのきっかけ。
ああ、ここだここだ。
 廃屋の周りを歩き回りながらコートを脱ぐと、なぜかその下には学生服が。時は夕暮れ時に……。
……声立てないで。
 いきなりドア枠を引っ張ってきた悠里が、その中に観を引きずり込む。(というか、ドアが移動する)
な……。
何をしていたの?
 悠里のバッテリーを含む怪しげな機械の中に座り込む観。
いや、別に……。
私、知ってる。普通の人、こんなとこ来ない。今だって、昔だって……。
昔って……何アレ?
……何だと思う?
ごめんなさい、何だか分かんないけどゴメンナサイ、後つけました、もうしませんから、帰してください!
名前は?
は……羽佐間観(はざま かん)!
年齢! 性別! 生年月日!
17歳! 男! 〇〇年○○月○○日! ……て、男でしょ、見たら分かる……。
所属!
○○高校2年○○組……て、何でそんなこと?
知ってた……ついてきてるの。だから、毎日行った……ガッコウ、に。
何年……何組?
ネン……? クミ……? わからない。
うちの生徒じゃないの?
この時代の……人間じゃない。
時代……人間?
私は、はるか未来から過去の風俗調査を目的として送り込まれたアンドロイド。あなた以外にもう一人、私に近づくものがいたら、私は壊れてしまう。だから、私のことは誰にも言わないで。言えば……。
怪しげなメカの山が光を放つ。呆然とする観の前で、悠里はメカから充電を始める。
バッテリーにも限りがある。私には時間がない。
バッテリー? 時間?
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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