シロウトのこだわり

文字数 484文字

 徹夜の疲れがどっと出た。もう何をする気力もなかった。でも、自業自得とはいえ一晩がかりの仕事だ。
(……ナナメ読みしただけで書き直し? いくらなんでもそりゃひどいだろ) 
 この「思った」で終わるのが僕の性分だ。不満を感じても、上から言われることには唯々諾々と従う。
 これもオヤジの処世術の一つで、現にオフクロに逆らうことは絶対にない。僕も、幼い頃からこれを見習っている。
 家でも学校でも守ってきた「長いものには巻かれろ」。
 だが、徹夜して台本を書いてきた僕の気持ちは、いつもとは違っていた。
せっかく書いてきたのに。
 不満がつい、口をついて出た。
 しかし先輩絶対は部活動の習い。僕の行動は愚かだった。
 かすみセンパイの怒りに火がついたのである。
台本ナメてんの? あんた。
 その台本はというと、僕の眼前に丸めて突きつけられている。時代劇で無謀な果し合いに敗れて刀を突きつけられる浪人者になった気分だった。
 
……ちゃんと考えて書きましたよ。
 それでも僕はおずおずと反論した。まずいと思ったが、まるで公衆の面前で自分の子どもを叱られた親のように、自分の台本にこだわっていたのだ。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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