アリストテレスと黄門さま

文字数 703文字

2300年も前にアリストテレスが、ギリシャで書いた『詩学』で決めたのよ。
 言ってる本人は大真面目だが、理屈はムチャクチャだった。そんな大昔の人に僕の台本の書き方を指図されたくない。
なんで、ア・リ・ス・ト・テ・レ・ス、がそんなこと決められるんですか。
 僕は嫌味たっぷりに質問した。そのくせ、また怒られるんじゃないかという気はしていたのである。だが、かすみセンパイは諭すように説明した。
 決めたんじゃなくて、それまであった物語を分析して結論を出したのよ。これだけはソフォクレスもシェイクスピアもブレヒトも水戸黄門も変わらないの。

 かすみセンパイは頼山陽の起承転結を黒板消しで一気に消した。
 代わりに、黒板にゆっくりと「水戸黄門」と書いて解説する。


 はじめ……黄門様がやってきた土地についての情報。
 なか……事件が起こる。
 おわり……印籠が出て解決。


 例がベタすぎて反論の余地がない。

書き直してきます。
 ようやく負けを認めたのに、センパイの一喝が飛んだ。
まだ書くな!
……え?
 訳がわからないできょとんとしていると、かすみセンパイは腕組みをして僕を睨みつけた。
「はじめ」の部分で、観客に登場人物の何を見せるか、考えて来い。
 僕は指を折って数えた。
ひい、ふう……みい。

 連休まであと4日しかない。宿題が出る連休に、台本書く余裕があるワケがない。最終日に徹夜は絶対イヤだった。

 そんな泣き言は許さないとばかりに、かすみセンパイはつかつかと僕に歩み寄る。

 掌で、机をバンと叩いた。

どっちがいい? 下手に書いて全部やりなおすのと、アンタお気に入りのキャラだけ作り直されるの。
 どっちもイヤだったけど、選択の余地はなかった。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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