センパイの熱い想い

文字数 584文字

でもね、アタシ、嬉しかったんだ、アンタが手挙げてくれて。
 余程眠いのか、センパイの声は、ますます小さくなる。僕の手が一瞬、止まった。作業を促すように、センパイは続ける。
ウチの学校、底辺校でしょ? でもね、この演劇部には演劇部の意地があるの。芝居だけは誰にも負けない、っていうね。だからアタシ、ここを選んだ。皆、プライド持って、できることを一生懸命やってる。だからアタシは、ここが好き。
 好き、という言葉に、なぜかドキっとした。自分がそう言われたわけでもないのに。だがセンパイは、そこで言った。
でもね……。
 まだ何も言ってないのに、胸がきゅんと痛んだ。僕にできることなら、何でもしたかった。
……何ですか? 僕でよかったら……。
アタシたちの先輩が築いてきた伝統と実績にアグラかいてる連中がいるのも確か。アタシ、入部してからずっとそれが悔しかった。

 内心、グサリときた。僕のことだ。

 適当にやって大会上位に入って、記録を調査書に書いてもらおうと思っていたのだ。
 その僕に、センパイは言った。

でも、アンタは台本担当に手を挙げた。動機はどうだか知らないけど。
 一言多いが、返す言葉がない。僕はキーを叩きながら、次の言葉を待った。
 だが、センパイの「寝ながら説教」はそこで終わってしまった。
 僕の耳に残ったのは、かすかな囁きだけである。
教えることは教えたからね。あと、任せた……。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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