戦いの一夜

文字数 695文字

 そんなわけで、僕は生まれて初めて台本なるものを書く羽目になった。 
 しかし、台本を書くとなれば、完成までかすみセンパイのシゴキに耐えなければならない。
 確かに、シゴキだって個人授業と考えれば悪くない。
(ふふ……周作? 怖がらないで、アタシが全部、教えて、あ・げ・る……)
(かすみセンパイ……)

 だけど、そんなオタク的に膨らんだ妄想も、現実の前には弾けてなくなる。


とりあえず、一晩だけ頭冷やしてこい。
失礼しま~す……。

 早めに解放されたので、怒りの治まらない部員と出くわさないで済む。

 座ったまま一方的に説教されて、どっと疲れた身体を引きずるようにして帰った。

 胸ぐら掴まれるわ罵声は浴びるわ……あれ完全にパワハラだろ。

 

 あれがそう何日も凌げるとは思えなかった。

 そこで僕は仕方なく、その晩、必死でパソコンにに向かった。いやなことはまとめて済ませてしまうに限る。
 もちろん、台本の書き方なんて分からない。

 だけど、「ないよりマシ」っていうのも、オヤジの口癖だった。

(……現物は、ないよりあったほうがマシだよな)

(……書いたの、直してもらうほうが楽じゃないか?)

(……一から教わってチマチマ書くより、絶対!)

そう思って、ほとんど徹夜でオヤジのパソコンに向かった。
何やってんの、早く寝なさい!

 オフクロにガミガミ言われながらも眠いの我慢して頑張って、書きあがったものをプリントアウトしたのは夜が明ける頃。

 そのままベッドに転がり込んだのも束の間。

起きなさい、遅刻するでしょ!
 やがて遅刻のピンチに気付いたオフクロに叩き起こされ、弁当無し、朝食抜きで登校……おかげで放課後は完全にダウンだった。
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登場人物紹介

真崎周平(まさきしゅうへい)


やる気なし、その場にいるだけのほとんど幽霊演劇部員。高校2年生。

アニメオタクで事なかれ主義のどうしようもないダメ男だが、その場の勢いで引き受けた戯曲づくりに夢中になっていく。

安藤かすみ


舞台に情熱の全てを注ぐ演劇少女。演技演出戯曲執筆と、劇作の全てに通じる高校3年生。小柄だがプロポーションも抜群、但し本人に自覚は多分、ない。下級生の面倒見はいいが態度はキツい。実は照れ屋。

羽佐間観(はざま かん)


周作の台本に登場する主人公。

オクテな高校生だが、好奇心は強い。

紫藤悠里(しどう ゆうり)


周作の台本のヒロイン。

未来から来た精巧なアンドロイド。2人以上の人間と接触するとショートする。

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