月宮盈の大悪魔能力 その2

文字数 1,174文字

 彼女は自称大悪魔だし、とても強いんじゃないかってことは、僕だって分かる。
 でも、所詮一人の女性なのだ。何時、プロレスラーの様な奴がやって来ないとも限らないし、光臨派と云う奴らが、どんな卑怯な罠を張ってくるか知れたものではない。
 彼女のことを全て信じると、確かに僕は言った。だが、心配のあまり、どうしても顔を歪めずにはいられなかった。

 それを見た彼女は立ち上がり、何でもないとばかりに大きく笑った。
「マサシ、お茶でも淹れよう。祁門の良い茶葉があるのだ」
「ま、待って……」
 彼女は僕の言うことなど無視し、キッチンの方に行ってしまう。

 彼女は硝子のサーバーに水道の水を入れ、それをコンロの火に掛けるでもなく、冷たい水の儘、左の掌の上に乗せて戻って来た。
「公主、アイスコーヒーにするのですか?」
「マサシ、紅茶にすると言ったであろう? それに、アイスにするにしても、お湯は一度湧かさねばならないぞ!」
 彼女がそう言った途端、サーバーの中の水は突沸でも起したかの様に、突然沸騰した。
 唖然とそれを見ていた僕を残し、彼女は再びキッチンに戻り、トレイの上に紅茶の準備を始めている。そして、僕に聞こえる様に、態とらしく独り言を言った。
「う~ん、お湯の温度が熱すぎたな……。これでは祁門の渋みが出過ぎて、折角の茶葉が台無しではないか……」
 そして僕に尋ねた。
「仕方ない。マサシ、アイスミルクティーでも良いか?」
 僕には嫌も応もない。どんなトリックを彼女が使ったのかと、混乱した頭のまま、目を丸くして、ただ頷くだけだった。
 彼女が今度持って来たのは、紅茶セットの乗せたトレイ。それを彼女は、絨毯の敷いてある床にそのまま置いて僕の前に座る。
 正座する彼女と、胡坐を掻く僕の間に置かれたトレイ。そこには、紅茶の葉が中で踊っている硝子のサーバーと、ミルクの入ったミルクピッチャー、そして水の入った水差しとアイスティー用のグラスが乗せられている。だが、アイスティーだと云うのに、グラスの中に氷は入っていない。
「こ、公主。氷を忘れてますよ……」
 僕は恐る恐る彼女に確認した。
「あ、行けない!」
 と言うかと僕は思ったのだが、彼女は口元に少し笑みを浮かべ、こう言ったのだ。
「何を見ている? そこにあるではないか」
 驚いた僕が彼女を見ていると、彼女は左手に水差しを持って、自分の右の掌にその水を注ぎ、その水をぐっと握りしめた。そして、次にその手を開いた時、水は手の中で輝くばかりの氷粒に変えられていたのである。
 もう言葉も出ない僕を前に、何度か同じことをして、彼女は掌の氷を二つのグラスに満たした。
「驚いたか? マサシが余りに私を見くびるのでな。少しばかり、私の能力を見せつけてやったのだ」
 彼女はそう言ってから、少し濃く入れ過ぎてしまった紅茶を、氷のグラスへと注いでいくのであった。
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