月宮盈は人間か? その1

文字数 1,118文字

 僕が彼女と出逢った場所、本町の駅の東側には、駅から東に向かう国道までの本町通りの他に、白旗神社から白旗交差点の間の国道沿い、駅から伊勢山橋へと出る線路沿いなど、新旧様々な店舗が軒を連ねている。
 ここら近辺は、史跡や歴史ある社寺、老舗も多く、江戸時代の昔を忍ばせるものも少なくない。それは、ここが旧東海道の宿場町に当たるからだった。
 遊行寺坂の江戸見付から、右に折れて遊行寺門前を通り、左方向の赤橋(遊行寺橋)を渡って、国道に出てから、国道を右にぐるっと進んで白旗交差点を越え、伊勢山橋で私鉄の線路を渡り、直ぐ先にある京見付まで。それがこの宿場の範囲となる。
 JR藤沢駅周辺程では決してないが、本町で比較的賑わっているのは、本町通りと白旗神社から白旗交差点間の国道沿いで、ここには新しい商業施設もあり、明るく賑やかな雰囲気が醸し出されていた。
 僕はその白旗交差点から、JRの駅方面に向かう道を、フラフラと当てもなく彷徨っていた。その日、仕事が休みだったからなのは間違いないが、特別用事があったからと云う訳ではない。
 そんな時である、彼女の行きつけの店「ジェイジェイ」のマスターに後から呼び止められたのは……。

「やあ、久しぶり。随分とお店の方に来てくれていないね」
 そう、僕は彼女と喧嘩してから、何となく行き辛くなって、(ほぼ)半月「ジェイジェイ」には足を運んでいなかった。
「盈と喧嘩でもしたかい?」
(図星だ……)
「丁度いいや、もし君が嫌でなければ店に来ない? まだ開ける時間じゃないから、お客様も誰も来ないし、君と二人きりで話したいことがあるんだ……」
 僕は少し考える振りをしてから、結局マスターの誘いに乗って「ジェイジェイ」に行くことにした。

「折角だから……」
 心の中で、僕はそう言っていた。
 でも、それは恐らく自分を偽っていたに過ぎないのだろう。態々(わざわざ)、休日に本町にまで来ているのだ。僕は「ジェイジェイ」に行きたくない訳がない。寧ろ、行きたくて(たま)らなかったのだと思う。

 僕は無言でマスターについて行き、店の前まで来ると、彼が店の鍵を開くのを、黙って見守っていた。
 マスターは無口と云う訳ではないが、比較的余分なことを言わない男だ。僕も今日は余り無駄口を叩きたくない気分だったので、会話が無くなるのは不思議な事ではない。
「さあ、入って!」
 僕は店に入り、マスターに勧めらるままにカウンター席に腰掛けた。
「マサシ君、悪いね。準備しながらなので、カウンターでないと話し辛いんだ……。で、何が原因なの?」
 僕は(とぼ)けたかったのだが、喧嘩したことは、もう既にバレている。だから、仕方ないので、その余りにくだらない経緯(いきさつ)を僕はマスターに話すことにしたのだ。
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