そして僕は彼女と会った その5

文字数 1,235文字

「えーと、それから僕は……」
 耀公主と呼ばれた女性は、僕の話を聞き、何か納得した表情で大きく頷いた。
「あ、大体分かったわ。それにしても、一般人を巻き込むなんて、本当、何考えているのかしらね。操舵主に抗議の電話いれておくわ。『ルール違反だって……』」

 何か思いついたらしく、彼女は話題を切り替えてきた。
「えーと、取り敢えず、誤解を解いておかないとね……。先ず、私は妖怪ではありません。強いて言うと、私は時空の裂け目から来た大悪魔です。それから、私は毎晩夜歩きなんてしたりしません。今は月下美人が咲いた夜だけです。ついでに言うと、男の口を奪い生気を吸い取るって言っても、迷惑なんか誰にもかけてません。時々しかね……」
 彼女は僕に向かって、茶目っ気たっぷりにウインクをした。
「なんたって、ここではキス魔の(えい)ちゃんで通ってるのよ。酔っ払うと誰彼構わずキスしちゃうって……。そこで、ほんの少し生気を分けて貰ってるの。結構おじさんたちも面白がってくれてるし……、ウィンウィンの関係よね!」
「ウィンウィン?!」
「そう、ウィンウィン。あ、勿論、私だって多少は相手を選ぶわよ。お年寄りや小さい子供はNG。お年寄りは、興奮して脳溢血とかなったら困るでしょ。小さい子供だと、お姉さんに遊ばれて、女性恐怖症にでもなったら、先々不幸じゃない?」
(元気なお年寄りや、
 小さくなければ子供でもOKなんだ……)
 僕は声にならない声で呟いていた。

「でも、妖怪さんって、随分、最初の印象と随分違うなぁ。なんか陽気って言うか……」
 僕も段々と、この人との会話に慣れてきた。
「そりゃあ、さっきはおなかが空いていてイライラしていたけど、今は生気吸いまくりで満腹、大満足だもの!」
「吸いまくりって……、妖怪さん……、あんたは……」
 僕は少し呆れて彼女の顔を眺めていた。確かに彼女は、すっきりした表情で笑っている。
「だからぁ、妖怪じゃないって! 月宮盈(つきみやえい)。これが人間としての私の名前。(えい)って呼んでいいわよ」

(そう言えば……)
 ふと僕は気絶する前に、彼女が誰かに鞭で首を絞められていたことを思い出した。恐らく、その誰かとは、僕に妖怪退治を指示した、あの怪しい男に違いない。彼女は妖力を封じられて大ピンチだった筈だ。
「ところで、さっき誰かに襲われてなかった? 大丈夫? 怪我しなかった?」
「えっ?」
 月宮盈と云う女性は、何を尋ねられているのか、全く意味が分からなかったらしく、驚いた様な表情で首を傾げた。
「だから、僕を囮にして、誰かが盈さんを攻撃していたでしょ。なんか妖力を使えなくしたとか言って!」
「光臨派の坊主? ちょっとキツ目にお仕置きしておいたわ。平手打ちで……。あんなの相手するのに、私、魔力なんて必要ないもの。あいつ、まだゴミ捨て場で顔腫らしてると思うよ。ほんと卑怯なんだから……。でもまぁ、あいつ、当分記憶が飛んでると思うけどね」
 月宮盈はそう言うと、意外にも少し照れながらにっこりと笑っていた。
「はぁ……」
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