彼女は誰よりも その4

文字数 1,444文字

 空から舞い降りた女性、即ち僕の彼女月宮盈は、降りてくると、立ち上がって迎えようとする僕に、いきなり抱きついてキスをしてくる。
 僕も、三人の大悪魔も、唖然として声も出なかった。僕はと云うと、安心して気が抜けたのか、体が痺れた感じで、全く体に力が入らなくなり、少しよろけてしまう。
「おーし、補給完了!」
 彼女の雄叫びが響いた。

 次に声を出したのは、お嬢だった。お嬢は自身の魔力の特性から、姿を月宮盈に変えている筈の彼女の正体を、一番に感じ取ったのではないだろうか?
「お兄さんの彼女って……、私……?」
「イシュタ■▼×?」と、お嬢の言葉に反応した岩男君も、驚きを口にする。

 実の処、僕はかなり満足している。この二人に彼女の正体を言わなかったのは、吃驚(びっくり)させてやろうと思っていたからなのだ。まぁ、しかし、爆弾発言にする心算だったのだが、本人がこんな形で登場する運びになるとは、流石の僕も予想まではしていなかった。

「でも、本当に良かった。公主一人で脱出できたんですね」
「いや、マサシのお蔭だ。少し少ないかと思ったが、あれで充分だった。それと光臨派の手抜き建築にも感謝しないとな……。
 体重を重くし、跳躍しただけで床が抜け、私は簡単に光臨派の罠から脱出できたのだ。
 琰の作用は、その能力を奪い取るものなのだが、こいつらの能力は、私が既に持っている能力なので、単純に生気を補給するだけの形になった。だが、それだけで充分だ。生気が戻りさえすれば、私は自らの持つ全ての魔力が使用できるのだ」

 そんな僕たちの会話に割り込む様に、炎の大悪魔が、彼女に因縁をつけて来た。
「お嬢の成人期だと? 本当か? こりゃ驚いたぜ。で、この時空は、お嬢の縄張りだから出ていけ……とでも言いたいのか?」
 彼女は炎の大悪魔の方に向き直り、笑いを浮かべながら、返事を返す。
「昔の(よしみ)だ。このまま、人間を殺さず立ち去ると云うのなら、見逃してやらんでもない。お前たちから奪う能力など、もう在りはしないしな」
「既に、お前の獲物を何人も喰っていると言ったら?」
「ならば、死ね……」
(公主、それ、完全に悪役のセリフ!)

 彼女と炎の大悪魔の遣り取りは兎も角、僕は別の意味で、ほっと胸を撫でおろしている。もし、ここに飛んで来た脅威が、彼女でなく、新たな別の怪物だったら、もう完全に収拾がつかなくなっている所だった。
「怪獣のレベルなんて脅かすから、心配しちゃったよ。でも、もう大丈夫だよ」
 彼はお嬢を安心させようと、僕の陰に隠れ、足にしがみついている少女に話しかけた。
「脅威は……」
 すると、お嬢が苦し気に、僕に何かを説明するように話し始めた。
「脅威は、そのもの自身の……、危険性の大小だけでなく……、相手の……力量、状況、そのほか……、色々……な物で、大きく変わってくるの……。お兄さんと顔を合わせるまでは、西にあった脅威は……、小さくはないけど、お兄さんと同じ位のものだった……。お兄さんのことを私が見た途端……、お兄さん自身の脅威と同じ様に、西の脅威も突然大きくなった……。そして、ここに飛んで来る間に……、どんどん、どんどん大きくなって……、とんでもないレベルに……。今、あの人が私の姿を直接見たとき……、痙攣が起こるほど、危険の増加を感じた……。
 大人の私、お兄さんを、とても心配してて……、もしお兄さんに何かあったら、絶対、私たちを……、皆殺しにすると決めているみたい……。あと、それとは別に……、あの人……、私を、とても憎んでいる……」
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