もう一度やり直したい その5
文字数 1,730文字
この少し前、僕が「ジェイジェイ」から立ち去った後、店の中では、こんな会話が行われていたとのことだ……。
「あの
中村さんが、楽しそうにマスター向かってに話を始める。
「そうだね。最近悪い風邪流行っているからね。お互い気を付けないと……」
マスターは、中村さんの悪口に同意しないよう、言葉を選んで答える。そして、カウンターに座っていた自分の妹に向かって、こう尋ねたのだ。
「盈、彼を追いかけなくていいのかい?」
「いいのよ。あんな奴!」
それを聞いて岡本さんがポツリと漏らす。
「でもあの調子だと、境川に飛び込み兼ねないねぇ」
「そうだね。でも、今、境川は水がないから、溺死じゃなくて、頭蓋骨骨折と脳挫傷で死亡ってとこかな」
何時も無口な前原さんが、にこやかに笑いながら、凄いことを言う。
「盈、探しに行ってきてよ」
マスターは困った顔で彼女に頼んだ。
「そんなに心配なら、お兄ちゃんが探しに行けば良いでしょう?」
「無理言うなよ。一応、店やってるんだよ。お客さんだけ置いて、店を空ける訳にはいかないだろう」
「中村さん、お願い」
彼女は中村さんに手を合わせて頼んだ。
「盈ちゃん、何言ってるんだよ。俺は酔っ払ってんの! 一日の労働の疲れをささやかな楽しみで癒してんの!」
と、中村さんは、態とらしく呂律を回らなくして答える。
「盈ちゃん、ほっときなよ。どうせ、大した奴じゃないし。あんな
しかし、岡本さんは、何時もながら、酷いことを言う。
「死んでいい人間なんてない! 死んだら困るから、私、探してくる!」
そうして彼女は、僕を追いかけ「ジェイジェイ」を飛び出したとのことだった。
店を出ていく彼女を見送ったあと、本町白幡商店街の三人衆は、僕らを肴にウィスキーを楽しんだとのことらしい。
「全く素直じゃないよな。『会わせてくれ』で許してたくせに……」
中村さんが、楽しそうにウイスキーを一口含んだ。で、それを聞いて岡本さんも、心配そうに一言。
「大丈夫かねぇ。これからあの二人。こんな程度で揉めるなんて」
「まぁ、今のうちでしょ。二人の世界に浸って喧嘩していられるのも……」
そう前原さん。
「ほんと、全然周りが見えていないんだから。あたしゃ、ちょっと心配だよ」
「あの小僧だけかと思ったが、盈ちゃんも結構何だよな。まぁ最近よく聞くバカップルって奴だな、あの二人は……」
(しかし、バカップル呼ばわりとは……
事実だけど……)
「まぁ、あたし達もそうだったけど、みんな最初は、ままごとと変わりない物だからねぇ」
「だからこそ、我々みたいな年寄りが要るんじゃないんですかね?」
その日の夜も、アイラ島産のスコッチが一瓶は空きそうな勢いだった……。
どうにか治まった夜から数日後、いつもの様に彼女と「ジェイジェイ」のカウンターで飲みながら、僕は前から聞きたかったことを彼女に尋ねた。
「公主、どうして僕なんかを使い魔に選んだんですか? 他にも賢そうな奴とか、力の強そうな奴とか、役に立ちそうな奴などは、幾らでもいるでしょう……?」
「うーん……、マサシ、お前の顔だな。その抜けきった間抜け面だ!」
「間抜け面?」
「そう、間抜け面。悪魔好みと云うか、私のタイプなのだ」
(はぁ?)
酷い言われようだが、まぁ間抜け面だろうが、何だろうが、僕は彼女に好かれているのだ。ならば、それで良いではないか!
僕はそう思い直した。
ふと何気なく、僕は手元のスマホを確認した。それには、数日間チェックしなかった未読メールが山の様に溜まっている。その中には慶子ちゃんからのメールもあった。
僕は覚悟を決めて、あの日のことを説明し、それを彼女に見せながら開いた。勿論、内容に依っては、即答で断る心算だ。
「及川君。結婚のこと信じた? ジョーダンだよ。xxxx(僕の悪口)なんかと結婚する訳ないじゃん。じゃーね、バイバーイ」
彼女は水割りを吹き出さない様に、如何にも堪えるのが苦しいと言わんばかりに、大きく体を震わせながら笑っていた。
「あの
馬鹿
で、お調子
ものの、間抜け面
の、マサシの奴、本当いい気味だぜ。頭から水被って。すぐ夏になるとは言え、夜は肌寒いからなぁ。あいつ、きっと風邪ひくな」中村さんが、楽しそうにマスター向かってに話を始める。
「そうだね。最近悪い風邪流行っているからね。お互い気を付けないと……」
マスターは、中村さんの悪口に同意しないよう、言葉を選んで答える。そして、カウンターに座っていた自分の妹に向かって、こう尋ねたのだ。
「盈、彼を追いかけなくていいのかい?」
「いいのよ。あんな奴!」
それを聞いて岡本さんがポツリと漏らす。
「でもあの調子だと、境川に飛び込み兼ねないねぇ」
「そうだね。でも、今、境川は水がないから、溺死じゃなくて、頭蓋骨骨折と脳挫傷で死亡ってとこかな」
何時も無口な前原さんが、にこやかに笑いながら、凄いことを言う。
「盈、探しに行ってきてよ」
マスターは困った顔で彼女に頼んだ。
「そんなに心配なら、お兄ちゃんが探しに行けば良いでしょう?」
「無理言うなよ。一応、店やってるんだよ。お客さんだけ置いて、店を空ける訳にはいかないだろう」
「中村さん、お願い」
彼女は中村さんに手を合わせて頼んだ。
「盈ちゃん、何言ってるんだよ。俺は酔っ払ってんの! 一日の労働の疲れをささやかな楽しみで癒してんの!」
と、中村さんは、態とらしく呂律を回らなくして答える。
「盈ちゃん、ほっときなよ。どうせ、大した奴じゃないし。あんな
間抜け面
の一人や二人、死んだところで誰も困りやしないよ」しかし、岡本さんは、何時もながら、酷いことを言う。
「死んでいい人間なんてない! 死んだら困るから、私、探してくる!」
そうして彼女は、僕を追いかけ「ジェイジェイ」を飛び出したとのことだった。
店を出ていく彼女を見送ったあと、本町白幡商店街の三人衆は、僕らを肴にウィスキーを楽しんだとのことらしい。
「全く素直じゃないよな。『会わせてくれ』で許してたくせに……」
中村さんが、楽しそうにウイスキーを一口含んだ。で、それを聞いて岡本さんも、心配そうに一言。
「大丈夫かねぇ。これからあの二人。こんな程度で揉めるなんて」
「まぁ、今のうちでしょ。二人の世界に浸って喧嘩していられるのも……」
そう前原さん。
「ほんと、全然周りが見えていないんだから。あたしゃ、ちょっと心配だよ」
「あの小僧だけかと思ったが、盈ちゃんも結構何だよな。まぁ最近よく聞くバカップルって奴だな、あの二人は……」
(しかし、バカップル呼ばわりとは……
事実だけど……)
「まぁ、あたし達もそうだったけど、みんな最初は、ままごとと変わりない物だからねぇ」
「だからこそ、我々みたいな年寄りが要るんじゃないんですかね?」
その日の夜も、アイラ島産のスコッチが一瓶は空きそうな勢いだった……。
どうにか治まった夜から数日後、いつもの様に彼女と「ジェイジェイ」のカウンターで飲みながら、僕は前から聞きたかったことを彼女に尋ねた。
「公主、どうして僕なんかを使い魔に選んだんですか? 他にも賢そうな奴とか、力の強そうな奴とか、役に立ちそうな奴などは、幾らでもいるでしょう……?」
「うーん……、マサシ、お前の顔だな。その抜けきった間抜け面だ!」
「間抜け面?」
「そう、間抜け面。悪魔好みと云うか、私のタイプなのだ」
(はぁ?)
酷い言われようだが、まぁ間抜け面だろうが、何だろうが、僕は彼女に好かれているのだ。ならば、それで良いではないか!
僕はそう思い直した。
ふと何気なく、僕は手元のスマホを確認した。それには、数日間チェックしなかった未読メールが山の様に溜まっている。その中には慶子ちゃんからのメールもあった。
僕は覚悟を決めて、あの日のことを説明し、それを彼女に見せながら開いた。勿論、内容に依っては、即答で断る心算だ。
「及川君。結婚のこと信じた? ジョーダンだよ。xxxx(僕の悪口)なんかと結婚する訳ないじゃん。じゃーね、バイバーイ」
彼女は水割りを吹き出さない様に、如何にも堪えるのが苦しいと言わんばかりに、大きく体を震わせながら笑っていた。