バアルゼブルとの決着 その2

文字数 1,470文字

 結局、僕はどうにも背中のムズムズが我慢できなくなってしまった。
「公主、出発前に申し訳ないのですけど、僕の背中を見てくれませんか? 何か虫に刺されて蚯蚓腫(みみずば)れにでもなっていませんかねぇ?」
 僕は彼女の返事も待たず、素早くシャツを脱いで上半身裸になり、彼女に背を向け、背中を見て貰った。
「この部屋は結構冷えているのだ。風邪ひくぞ。あ、クスサンの終齢幼虫、俗にいうシラガタロウだな。攻撃で取りついていたのが、寒くなったので、マサシのシャツの中に避難したのだろう……。しかし、全く訳が分からん。何で毒蛾の幼虫でなく、無毒のこいつを操る虫に選んだのだろう?」
 彼女は僕の背中まで来て、人差し指の爪で虫を弾き落とした。
「えっ?」
「どうしたんです?」
「こいつ爪で弾いたら、『イテッ!』って喋ったのだ」
 彼女は少しの間、難しそうな顔をしていたのだが、直ぐに笑い出し、僕に笑いの理由を説明し始めた。
「そうか、そうか……。なんて私は愚かだったのだろう……」
 だが、僕には彼女が何を言っているのか、全く分からなかった。
「都心の方角に、普通の悪魔数人分にあたる非常に強力な脅威があった。そんな折、大悪魔バアルゼブルが現れる……。これで私は、バアルゼブルは都心にいて、そこで罠を張っているものだとばかり、勝手に思い込んでいた。確かに、他には悪魔らしい巨大な危険など、何処(どこ)を探しても無い。精々危険な虫どもが、私たちの周りにいる程度だ……。これに私は騙された。奴は最初から都心になどいなかったのだ。そう、ヒントは与えられていたのだ」
「何を言っているんです?」
「朝、カマキリが喋っただろう。どうやってカマキリは日本語を話したのだ?」
(いや、それは口で喋ったんでしょう?)
「私はずっと、バアルゼブルが、マイクとスピーカの替わりとして、カマキリの聴覚器官と発声器官を利用しているものだばかり思っていた。しかし、よく考えれば、カマキリの発声器官では、日本語どころか『あ』の音すら出せはしないのだ」
「……」
「マサシも、話さない物が話しているかの様に、別の人間が声を変えて話している芸を見たことがあるだろう?」
「それは……。それって、もしかすると……、芸人さんが人形持ってやっている……。」
「そう、腹話術だ。腹話術であれば、カマキリが日本語を話したとしても何も不思議はない。で、あれが腹話術だと云うことであれば、奴はあの時、既に私のマンションにいたことになる。それも見えない姿で……」
 確かに腹話術であれば、カマキリが話すように見せることも出来なくはない。
「そして、ここに着いた時、すぐに攻撃が始まった。都心からの遠隔操作にしては、あまりに早すぎる。ではどうやった? それは単純。遠隔からの攻撃指示だと思うから早く感じるが、ここにいたとすると……」
「そりゃ、直ぐに操れれば、直ぐに攻撃できるかも知れませんね……。って、まさか? マンションに奴はいて、ここにも直ぐに来たってことは……」
「そう、バアルゼブルは私たちと一緒にステルス機でここに来たのだ。ここで虫を捕らえ、それから操ったとしても、そんなに時間は掛からないだろう。しかし、手当たり次第に近くにいる害虫を選ぶことになったので、強力な虫ばかりではなかったのだ。
 では、ステルス機の中で、私たちといたと言うのに、奴はどうして私たちに気付かれなかったのか? 透明になる能力でもあるのか? それは違う。透明になったとしても、人間大では大きすぎて、ステルス機の中でマサシにぶつからない訳がない」
 とすると、奴が取った作戦ってのは……?
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