バアルゼブルとの決着 その3

文字数 1,403文字

「奴は、私たちが気が付かない程度の大きさになっていたのだ。それも、虫だらけの戦場で虫に化けるとは……。物を隠すときの鉄則だな」

 僕にも、ようやく彼女の言いたいことが理解できてきた。彼女は、僕の背中にいた毛虫がバアル何とかの化けたもので、奴はその姿で正体を隠しながら、近くの害虫を操って攻撃させていたと考えているのだ。そして、それを、こいつが思わず悪魔語を口にしたことで、それに気付いたと云うことらしい。

 だが、毛虫が話したからと言って、毛虫が悪魔だと云う論理は成り立たないのではないかと僕は思う……。
「でも公主、カマキリが腹話術で話したって仮定するのであれば、この毛虫も、同じ様に腹話術で悪魔語を話したように見せたと云うことは考えられないのですか?」
「必然性がない! 私たちが、敵は虫に化けていると云うことを知っているのであれば、本体の場所を誤魔化す為に毛虫に喋らすこともあるだろう。だが、私たちは、それには未だ気付いていなかった。それに、仮に本体と私たちに思わせたとしても、カマキリの時の様に、潰してしまえば直ぐにばれる。試してやろうか?」
「成程……」
「参道で、マサシから小さな脅威を感じた時、帽子のことできつく言い過ぎたものだから、虫の死骸でも背中に入れて、仕返しする心算なのだと思っていた……。まさか、スズメバチより弱い、そんな脅威が大悪魔のものとは、流石の私も考えすらしなかった……」
 彼女は少し笑みを浮かべる。
「小さな虫に化け、自身の戦闘力を意図的に下げていたのだな……。全く騙されたぞ」
「でも、公主。虫に化けるって、バアルゼブルって、一体どんな奴なんでしょう? 僕と同じ人間なんでしょうか? 奴は、小さくなってから、虫に化けたんでしょうかね?」
「さあ、私の知っている大悪魔は、全て人間だった。さて、バアルゼブルの正体はどんなものか? 角の生えたパンのような姿か? あるいは巨大な蠅の王か?」
 後で聞いたのだが、ベルゼブブと云うのは、そんな姿だと思われているらしい。
「元の姿に戻っても、このままの大きさか? それとも私たちと同じ大きさか? はたまた大きさを自由に変えられるのか?」
「ほー、虫さん。何処(どこ)に逃げようって云うんだい?」
 僕は這って逃げようとする毛虫を、脱いで右手に持ち替えたスニーカーで部屋の中央へ押し戻した。
「さぁ、もういいだろう。正体を現せ、蠅の王、大悪魔バアルゼブル!」
「……」
「しらじらしいぞ」
「……」

 ふと僕は、彼女の推理が間違っている様な気がしてきた。
「公主、もしかすると……、公主は勘違いしているのでは? 公主は前に、大悪魔は基本的に一種類の個別能力しか持ってないって言ってましたよね。ベルゼブブの個別能力が虫を操る能力だとしたら、ベルゼブブには、小さくなったり、虫に化けたりする能力など、無いのではないですか?」
 僕は、そう彼女に疑問を投げかけた。彼女も少し考えてから、僕の方を向いて確認する。
「マサシ。こいつは、バアルゼブルではないと云うのか?」
「そう云うことではなくて……。こいつ、もしかしたら、この姿が正体なのでは? 悪魔が虫に化けたのではなく、最初からこの姿。ベルゼブブとは、毛虫の大悪魔なのでは?」
「な、なにぃ?! け、毛虫が? 毛虫が私に挑戦してきたと言うのか? この毛虫一匹が? それも、本物の虫と変わらないレベルの脅威しかない、このちっぽけな毛虫がか?」
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