不可解な戦術 その2

文字数 1,058文字

 また暫く、僕たちは無言で石段を登っていたのだが、僕に話し掛けたかったのか? それとも自問したかったのか? 登りながら、突然、彼女は会話を再開してきた。

「矢張り、私には、奴が予知能力を持っているとはどうしても思えない。奴に予知能力が在るのであれば、もう少し準備良く攻撃してくる筈だ。しかし……、だとすると、何故、これほど早く虫が襲って来るのだろうか?」
 それに対し、僕が答えられる筈もない。
「飛べないヒルを操っている以上、バアルゼブルのいる都心で虫を捕らえ、ここまで虫の飛行能力で飛ばしたと云う訳では決してない。
 ならば、奴の能力で、操った虫を瞬間移動などさせて、ここに運んだのか……?
 だが、もし、奴にそれが出来るのなら、ヒアリなどの強力な虫を直接、私たちの移動中のステルス機内に送りつけることだって出来た筈なのだ……」
「不思議ですか? どこかで僕たちのことを監視していて、僕たちの近くにいる虫を見つけては、その虫を次々と操っているんじゃないですか? それだったら、到着と同時に襲われたって、不思議はないでしょう?」
「そうかも知れない。多分そうだな……。しかし、奴が虫を操る方法は、針金を使って虫の体内から操作すると云う、かなり物理的なものではないかと思っていたのだ」
 確かに、カマキリの死骸には毛の様な気色の悪い生き物が蠢いていた……。
「ならば、針金を刺す為に、奴はここに来ていることになる。しかし、それはない。脅威の中心は間違いなく都心にあるのだ。それは私の危機察知が教えてくれている」
「でも公主、都心であれだけの数のヒルを操るったって、抑々(そもそも)そんなに沢山ヒルなんか、都心にいないと思いますよ。ヒルは絶対ここにいた奴を操ったんですよ」
「では、奴はどうやったと言うのだ? 奴は、操る針金だけを飛ばすことが出来るのか? うん、多少の距離なら、奴は針金を飛ばすことくらい出来るのかも知れない。
 しかし、遠隔地だとすると、針金を飛ばすにも相当の時間が掛かる筈だ。
 ならば、あの針金を突然ここに瞬間移動させ、この近辺にいる虫を選んで刺し、操ったのであろうか?」
 正直、僕は、彼女が何で悩んでいるのかが良く分からなくなってきた。何れにしても、僕は息が切れ、上手い返事など出来そうもない。
抑々(そもそも)、あの針金はフェイクだったのか?」
 彼女も考えが纏まらない様だ。
「ああ、いずれにしても、バアルゼブルの本体を叩かなくてはきりがないな……」

 僕が彼女の問いに答えなくなった為か、彼女は再び無言に戻り、まだまだ続く石段を駆け登り続けた。
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