サバト、そして空を行く その1
文字数 1,586文字
翌日の日曜日、早速、僕は彼女から呼び出され、買い物に付き合わされる羽目になった。僕は、おっかなびっくりで彼女との待ち合わせ場所に来たのだが、結局、何も問題はなく、寧ろ普通に楽しいデートでしかなかった。
二人きりの時以外、彼女は例の奇妙な話し方もしなかったし、僕に無体な要求をしてくることも全く無かった。
その日以降、僕は何度か彼女の呼び出しに応じ、一緒に流行りのアニメ映画を見に行ったり、絶叫マシンを乗ったりもした。何れも僕にとっては楽しい、夢の様な時間だった。
当然、そうした使い魔としての役目の他に、僕は家畜としての役目も果たさなくてはならなかった。それはデートの最後に、口移しで彼女に僕の生気を与えるというもの……。
こうして、ひと月もしないうちに、僕は彼女からの呼び出しを、いつしか心待ちにする様になっていったのだ。
この自称大悪魔、月宮盈の使い魔に、僕は充分過ぎるほど満足していた。
最初は下僕役なんて、みっともないとしか思えなかったのだが、今では、彼女がそう云う風に付き合いたいのであれば、このまま大悪魔の彼女でも、僕は全然構わないと思うようになっていた。
通常の生活では、彼女は僕になど勿体ないほど申し分のない相手なのだ。二人きりの時だったら、幾らでも僕は大悪魔の下僕として、彼女の為に尽くすことが出来る。
そんな夢の様な日々の最中 、その事件は起こったのだった……。
僕が就職した出版社は、湘南出版と云うローカルな雑誌の出版社だ。
この日は、研修を終えて今の部署に僕が配属されてから、丁度一週間が経った日。その夜、僕はとある居酒屋で、上司、同僚二人が開いてくれた自分の歓迎会に参加していたのだ。
この出来事は、飲んでいる最中、公主からの命令が来ていないか、自分のスマホを、何となく僕が確認したことから始まったのである。
「お、なんだ。彼女か?」
五年前入社の佐藤先輩が、僕のスマホを覗き込み、面白がって大声で叫ぶ。
「やだー。こんなところでも、彼女のことが気になるのー!」
多少呂律 の回らなくなった、お局の小松女史が、すかさず僕を馬鹿にした。
「そんなに気になるなら、いっそここに呼んだらどうだ。歓迎するぞー。彼女ン家、遠いのか?」
そして、佐藤先輩が、とんでもないことを言い出したのだ。
「遠くはないんですが……。あの~」
「だったら遠慮するなよ~」
当然、佐藤先輩は、僕の彼女の正体が大悪魔などと云うことを知る由もない。大悪魔がどんなものか、実は僕にもよく分かっていないのだが……。まぁ兎に角、会社のみんなを危険に曝す訳にはいかないだろう。
僕は彼女が前に自分で言っていた、「キス魔の盈ちゃん」と云うことを使って、彼女を呼ぶことを止めさせようと考えた。
「彼女、酒癖悪くて……。あの~、簡単に言うと……、彼女、キス上戸なんです」
「何! よし、是非呼べ!」
「せんぱーい。冗談でも嬉しそうな顔して言わないでくださいよ。課長、何とか言ってくださいよぉ」
僕は、一人でメニュを眺めている課長に助けを求めた。が……。
「ん。よし、彼女の分は俺がおごってやる」
と一言……。
(違うって!)
結局、佐藤先輩たちに押し切られ、僕は彼女に、仕事帰りにここに寄らないかと、飲み会のお誘い連絡をする羽目になってしまった。だが、僕にはどうも悪い予感しかして来ない。
しかし以前、彼女がこう言っていたのを僕は思い出した。
「月下美人が咲かないと魔力を出さない……何てことは無いんだけど、いちど光臨派にそんな風に魔力を封印されちゃってね、そんなの簡単に解けちゃったんだけど、連日生気吸い続けると太っちゃうでしょう。だからダイエットの為、そのまま、月下美人が咲いた時だけって自主規制を掛けているのよ!」
(今日、月下美人は咲いてないだろう……)
(多分、大丈夫……な筈だ!)
僕はそう信じることにした。
二人きりの時以外、彼女は例の奇妙な話し方もしなかったし、僕に無体な要求をしてくることも全く無かった。
その日以降、僕は何度か彼女の呼び出しに応じ、一緒に流行りのアニメ映画を見に行ったり、絶叫マシンを乗ったりもした。何れも僕にとっては楽しい、夢の様な時間だった。
当然、そうした使い魔としての役目の他に、僕は家畜としての役目も果たさなくてはならなかった。それはデートの最後に、口移しで彼女に僕の生気を与えるというもの……。
こうして、ひと月もしないうちに、僕は彼女からの呼び出しを、いつしか心待ちにする様になっていったのだ。
この自称大悪魔、月宮盈の使い魔に、僕は充分過ぎるほど満足していた。
最初は下僕役なんて、みっともないとしか思えなかったのだが、今では、彼女がそう云う風に付き合いたいのであれば、このまま大悪魔の彼女でも、僕は全然構わないと思うようになっていた。
通常の生活では、彼女は僕になど勿体ないほど申し分のない相手なのだ。二人きりの時だったら、幾らでも僕は大悪魔の下僕として、彼女の為に尽くすことが出来る。
そんな夢の様な日々の
僕が就職した出版社は、湘南出版と云うローカルな雑誌の出版社だ。
この日は、研修を終えて今の部署に僕が配属されてから、丁度一週間が経った日。その夜、僕はとある居酒屋で、上司、同僚二人が開いてくれた自分の歓迎会に参加していたのだ。
この出来事は、飲んでいる最中、公主からの命令が来ていないか、自分のスマホを、何となく僕が確認したことから始まったのである。
「お、なんだ。彼女か?」
五年前入社の佐藤先輩が、僕のスマホを覗き込み、面白がって大声で叫ぶ。
「やだー。こんなところでも、彼女のことが気になるのー!」
多少
「そんなに気になるなら、いっそここに呼んだらどうだ。歓迎するぞー。彼女ン家、遠いのか?」
そして、佐藤先輩が、とんでもないことを言い出したのだ。
「遠くはないんですが……。あの~」
「だったら遠慮するなよ~」
当然、佐藤先輩は、僕の彼女の正体が大悪魔などと云うことを知る由もない。大悪魔がどんなものか、実は僕にもよく分かっていないのだが……。まぁ兎に角、会社のみんなを危険に曝す訳にはいかないだろう。
僕は彼女が前に自分で言っていた、「キス魔の盈ちゃん」と云うことを使って、彼女を呼ぶことを止めさせようと考えた。
「彼女、酒癖悪くて……。あの~、簡単に言うと……、彼女、キス上戸なんです」
「何! よし、是非呼べ!」
「せんぱーい。冗談でも嬉しそうな顔して言わないでくださいよ。課長、何とか言ってくださいよぉ」
僕は、一人でメニュを眺めている課長に助けを求めた。が……。
「ん。よし、彼女の分は俺がおごってやる」
と一言……。
(違うって!)
結局、佐藤先輩たちに押し切られ、僕は彼女に、仕事帰りにここに寄らないかと、飲み会のお誘い連絡をする羽目になってしまった。だが、僕にはどうも悪い予感しかして来ない。
しかし以前、彼女がこう言っていたのを僕は思い出した。
「月下美人が咲かないと魔力を出さない……何てことは無いんだけど、いちど光臨派にそんな風に魔力を封印されちゃってね、そんなの簡単に解けちゃったんだけど、連日生気吸い続けると太っちゃうでしょう。だからダイエットの為、そのまま、月下美人が咲いた時だけって自主規制を掛けているのよ!」
(今日、月下美人は咲いてないだろう……)
(多分、大丈夫……な筈だ!)
僕はそう信じることにした。