そして僕は彼女と会った その6

文字数 1,082文字

「さーて、一応言いたいことは言ったし、私はもう帰るけど、あなた帰れる?」
「ええ、もう大丈夫です」
 まだ実は、若干身体はフラフラしていたのだが、彼女の手前、僕は少し無理をしてそう言った。これ以上彼女に心配されたら、幾ら妖怪相手とは言え、流石に男として情けない。

「そうだ!」
 彼女は僕を見て、何か楽しいことを思い付いたかの様に掌をポンと叩いた。
「あなた、妖怪退治に応募するなんて、結構暇でしょう? 私の使い魔兼家畜にならない? 時々、私に生気を提供してくれるだけでいいからさ! 勿論、あなたを殺したりはしないから、安心してね」
 彼女はそう言って、いたずらそうに僕に向かって笑う。
「結構タイプなんだ。いいじゃない?」
「突然、何? 家畜? え、え?!」
「そう。携帯貸してよ……。アドレス交換しよう? あ、使い魔契約を解除したくなったら、私のアドレス消せばいいからね」
 彼女はアドレス交換した後、僕の名前を確認してから僕の携帯を返した。
「ではでは……。及川雅史、汝、我が使い魔となりて、我と共に戦うことを誓え」
(なっ、なんて強引なんだ。この人)
(酔っ払っているにしても……)
 こうして僕は、彼女の言われるままに、耀公主の使い魔兼家畜としての契約をしてしまったのだ。一方、彼女はと言うと、この急展開に唖然としている僕を、ドラマでも楽しむ様に嬉しそうに眺めていた。

「帰るぞ、マサシ!」
 彼女の話し方のトーンが変わったことに、僕が驚いていると、彼女は笑ってこう言い訳をしてきた。
「ああ済まんな。この話し方は、主人面している訳ではなく、悪魔としての威厳を見せる為のものなのだ。初対面の人間には使わない様にしているのだが、これからマサシは身内みたいなものだ……。と言うことで、許して欲しい」
 後で聞いたところによると、どうも悪魔を認識させる為のキャラ作りが、そのまま癖になったとのことだった。いずれにしても、そんなこと、僕にはどうでも良いことだった。

(じゃ、僕は彼女をどう呼ぼうか?)
(『盈ちゃん』いや『耀さん』かな?)
(でも一応、彼女はご主人様だし……)
(しかし、まぁ、家畜も悪くないよなぁ)
(労働の内容を考えれば……)

 彼女に生気を提供すると云うことは、即ち彼女とキスをすると云うことなのだ。彼女は間違いなく美人だし、僕にとっては願ってもないことじゃないか!!
 そんなことを考えていると、彼女は一人で店を出ようとしている。
「あっ公主、ちっと待ってくださいよ。駅まで一緒に行きましょうよ!」

 これが僕、及川雅史と耀公主、月宮盈との、ちょっと不思議で、結構ありがちな出会いだったのだ。
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