月宮盈の大悪魔能力 その5

文字数 1,415文字

「そして最後。これは私の師匠の固有能力で、汎用性、用途、どれをとっても最高レベルの魔力だ」
 僕は、彼女にしては、随分と勿体を付けていると思った。恐らく、この能力は彼女にとって、相当思い入れの深い能力なのに違いない。
「この能力は、引力と質量を相互に転換することが出来る力だ」
「???」
「自己および自己の魔力範囲内にある物体について、引力を質量に、質量を引力に変換させることが出来るのだ」
「重くしたり、軽くしたりするんですか?」
「そうではない。対象者は引力が増加しても、質量はその分減るので重さは変わらない。逆に引力が減少しても、質量がその分増えるので矢張り重さは変わらない」
「???」
「簡単に言うと、慣性を自由に操ることが出来ると云うことなのだ」
「慣性?」
「そうだ。動き易さを操作するのだ」
「動き易さ?」
「運動に消費するエネルギーEが等しい場合、質量Mを小さくすることにより速度Ⅴを上げることが出来る。また、質量に比例する慣性を小さくすれば、急速発進や急速停止も可能だ。これで、通常の何倍も高速で動くことが出来る様になるのだ。逆に、拳の質量を増すことで、ビル破壊に使われる鉄球並みの威力のパンチを放つことも出来るぞ」
 彼女はそう言って、僕に向かって笑みを浮かべた。まぁ僕には良く分からないが、彼女のドヤ顔を見ると、相当に強力な力なのだと云うことだけは僕にも想像できた。
 だが、この能力を持っていたって云う師匠ってのは何者なのだろうか? 魔力はその人に教わったとでも言うのだろうか?
「師匠って、何の師匠ですか?」
「ああ、私たちの格闘術の師匠だ。私たちの格闘術ってのは、空手と云うよりは中国拳法の動きに寧ろ近い。何れにしても、各自が持っている悪魔の能力とリンクしているので、通常の人間の拳法とは少し違ったものになっているな」
「例の光臨派と闘っているときに使ってるのが格闘術ですか?」
「あれは違う。あれは単なる平手打ちだ」
 僕は、光臨派の僧侶相手に彼女がよく使う、無造作に近づいて平手打ちするってのがそれかと思ったのだが、これは拳法の技ではないらしい。だが、平手打ちで相手を気絶させるなんて、どう云う仕組みなのだろう?
 僕の表情を見たのか、彼女は僕に補足説明を加えてくれた。
「大悪魔は人間と比較して、体力、持久力、速度、全てに於いて勝っているものなのだ。それと、人間であれば致命的な怪我であったとしても、悪魔の治癒力であれば、直ぐに治ってしまうのだ。只の人間である光臨派の坊主などに、私が負ける訳がない」
 彼女はそう言って、僕にニッコリと微笑んだ。それは「マサシと私は、そもそも種族が違う」と 言っている様に、僕には感じられた。
「で、でも公主。公主にだって、苦手なものや嫌いなものがあるでしょう?」
 そんな質問にも、彼女は少し考えただけで、秘密にすることなく僕に答えてくれた。勿論、それが本気なのかどうか、僕には分からなかったが……。
「私は、妖怪とかお化けなど、物理法則に反する存在は苦手なのだ。それと、命を大事にしない奴。特に『死にたい』などとほざく女は大っ嫌いだ! 本当に自分から死んでしまう女など、絶対に私は許しはしないのだ!」
 彼女は少し興奮気味にそう答えた。
 僕には、それは彼女の肉体の持主である月宮盈のことを言っているのだと思った。あるいは、もしかすると、それは自虐的に月宮盈と云う、自分自身のことを話したのかも知れなかった。
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