月宮盈の大悪魔能力 その1

文字数 1,164文字

 あれ以来、彼女は、僕に色々と自分の話もしてくれる様になった。
 僕は彼女の話すことについて、全て信じることにしている。それが仮に嘘であったとしても、僕にはそれで構わないし、それは僕にとっては、間違いなく真実なのだ。

 僕たちはその日、彼女の家近くにある海岸を散策し、伊豆の山影に沈む夕陽を眺めてから、彼女が一人暮しをしているワンルームマンションへと向かった。
 彼女の住むマンションは、龍口寺さんから程近く、江ノ電が路面へと顔を出す辺りから、路地を少し入った場所にある。以前、そこにはどこかの企業の保養施設があったらしいのだが、数年前、それが壊されて、このマンションに変わったのだと云うことらしい。
 彼女の住居は、玄関の正面が廊下になっていて、右にユニットバス、廊下の左には簡単なキッチンがあった。奥の部屋の右側にはベッドが置かれており、ユニットバスの裏側にあたる枕許はクローゼットが造り置きされていた。部屋の南側はカーテン越しに広い掃きだしサッシのベランダが続いており、マンションが斜面に建てられていた為か、南向きの窓からは、ベランダ越しに大きく相模湾が広がって見えている。
 彼女の部屋は、全体に小奇麗に片付けられていると云う印象で、家具らしい家具は、ベッドの他には箪笥と机しかなく、特別、散らかってると云う感じはしてこなかった。

「いい景色だろう? ワンルームって、何か寝るだけの、カプセルホテルみたいなイメージがあるのだが、ここはオーシャンビューが売りだから、窓が広くて開放的なのだ。それに、陽当たりが良いから、月下美人が実に良く咲く」
 彼女が厚手のカーテンを締める時、確かにレースのカーテン越しに、紐サボテンの様な代物の鉢が、幾つかベランダに置かれているのが僕にも見えた。
「どうだ? 悪くないだろう?」
「でも公主、女性の独り暮らしには、ちょっと開放的過ぎるのではないですか?」
 確かに陽当たりは良いのだが、女性の独り暮らしとなると、見晴らしが良いってのは、外からも覗けそうだし、安全面を考えたら、寧ろ欠点ではないかと僕は思うのだ。
「馬鹿々々しい。マサシは、私が暴漢にでも襲われるのでも言うのか?」
「だって事実、公主は謎の集団に狙われているじゃないですか。奴らがここに襲って来ないとも限らないでしょう!」
「光臨派か? あれは謎の集団でも何でも無いのがな……。光臨派とは、ここに攻めて来ない様に協定が取りつけてある」
「協定?!」
「それに、マサシも何度も見てるであろう? 私が一度だって、あいつらに負けたことがあったか?」
「でも……、もっと強い敵が、何時現れないとも限らないでしょう!」
 僕が本気で心配しているのに、彼女は僕の言うことなど、全然、真剣に考えてなどくれなかった。
「その時は……、マサシに護って貰う。だから、大丈夫だ!」
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