師匠との闘い、そして別れ その1
文字数 2,063文字
耀公主旧知のメンバーである、この大悪魔のグループは、他の大悪魔グループとは少し違っていたとのことで、彼らは、魔力を持ちながらも拳法の様な闘い方を好み、略奪もさることながら、強敵と闘う事を至上の喜びとしていたのだそうだ。
日々修練を積み、格闘技術向上を目指し、時に魔力なしに闘う事すら、彼らにとっては珍しい事では無かったと云う。そして、この格闘集団の技術指導をしていたのが、この重力質量変換の大悪魔であり、彼が師匠と呼ばれる所以とのことだった。
彼女が大悪魔であった頃、魔力が戦闘向きではなかったことや、突き、蹴りにしても女の子だった為に、一撃が軽く、悪魔にしては破壊力が足りなくて、実戦では目立った活躍は出来なかったのだと彼女は語っている。
それでも、彼女の格闘センスは群を抜いていた為か、師匠は、そんな彼女を弟子として愛してくれていたらしい。
彼女も、自分を一人前に扱ってくれる師匠が大好きだった。だから、大悪魔時代、彼女は師匠にずっとついていった。そして、万が一、師匠の身に何かあるようであれば、彼女自身が楯となり、命を懸けて彼を守ると心に誓っていたのだそうだ。
そんな師匠を殺し、彼の魔力を奪い取ったのが、耀公主であり、今の彼女だった……。
彼女と師匠の戦いは、一進一退の攻防が続いていた。先程と違い、お互いの重力質量転換操作は相殺 されているらしく、自分を軽くすることの出来ない彼女は、高速で移動することをせず、通常の肉弾戦を挑んでいた。
彼らの流派では、基本、一方が前に出て、他方がダンスの様に引いて間合いを合わせる。その間合いの中で、お互い突きや蹴りを交えるとのことであった。
単純な肉弾戦では、元の体格差で師匠の側に分があると僕は思う。でも、彼女には他の大悪魔の能力が八つもあるのだ。それを利用すれば、男女の体格差などは全く関係ない。恐らく、師匠は彼女に近づくことすら出来はしないだろう。
二人は闘いながら言葉を交わしていた。それは、師弟が、お互いの研究成果を楽し気に検討している姿である様に僕には見えた。
「師匠、さっき見ていたでしょう。私のことは重くも出来ないし、師匠自身を軽くさせもしません。師匠の魔力は、私には通じないのですよ」
「それはどうかな?」
二人の戦いは、左右の突きの連続攻撃が基本の様で、肘、膝、頭、それに前蹴りなどはあまり使われない。また、師匠の動きは一定だが、公主のそれは時に早く、時に遅く、速さのリズムが幾度も変化している。
「それも駄目です。師匠の癖は読んでいます。重くするときは左目を細め、軽くするときは右目を細めるのです。攻撃されてから対応するのなら兎も角、事前に分かった状況で対応するので、一瞬のタイムラグを利用しての攻撃すらも出来ませんよ」
「おい、使い魔の小僧、このお嬢が、何で態々こんなこと言ったのか分かるか?」
師匠は戦いの最中 、彼女に正拳突きの連打をしつつ、僕に質問を仕掛けてきた。突然のことで、お嬢を抱えて座り込み、その闘いを眺めていた僕は、つい返事を返してしまう。
「確かに癖を知っているのであれば、隠して闘った方が闘い易いけど……。癖を知っていると云うことを知らせて、相手に負けを認めさせる為ですかね?」
「違うな。そんなことじゃ俺は降参しないな。攻撃する時、態と逆の目を細めればいいだけだろう?」
(成程……)
「いいか、こんなことを言うってことは、お嬢は別の癖も知っているってことだ。『私はいくつも貴方の癖を知っています。これくらいは教えても大丈夫ですよ……』ってな。
目を細める何てのは、さっきも言った通り、癖を抑えることも出来る。後ろを向いていたら分からない。じゃぁ、お嬢は他 に何を知っているんだ?
でも実は、もう何も知らない、単なるハッタリなのかも知れない。これだけのことを戦いの最中に考えさせられたら、自分の集中力を相当奪われるだろう?」
(確かに……)
それにしても師匠は、その名の通り、教え魔だったんだなぁ。
「マサシ、気を抜くなと言ったろう! 氷の兄さんはマサシに手を出さないと言ったが、師匠はそんな約束なぞしていないぞ!」
少し師匠との間を取った彼女が、僕に大声で叫ぶ。その彼女の言葉の通り、師匠は急に僕の方に跳んで来ていたのだ。
そして、僕の喉笛に向けて、彼の強烈な右の貫手を放つべく、その右手を引き絞っている。
その師匠は、勝ち誇ったかの様に、こう言い放った……。
「悪いな、お嬢。これがお前の弱点だ!
我々のチビお嬢とお前とで何が違う?
この男がいるか、いないかだ。こいつを殺せば、お前はその多彩な魔力を、恐らくはもう使うことが出来なくなる。こいつが、俺たち全員の能力を使える、お前の力の源だと俺は判断した。どうだ、違うか?」
僕がいることで、彼女が魔力を使える訳ではない。僕とは全く関係がない。僕がいなくなっても、彼女は何も変わらず闘うことが出来る。何も変わりは無いのだ。
師匠の判断は誤っている……。
でも、僕が死んでも、彼女は平気でいられるのだろうか?
日々修練を積み、格闘技術向上を目指し、時に魔力なしに闘う事すら、彼らにとっては珍しい事では無かったと云う。そして、この格闘集団の技術指導をしていたのが、この重力質量変換の大悪魔であり、彼が師匠と呼ばれる所以とのことだった。
彼女が大悪魔であった頃、魔力が戦闘向きではなかったことや、突き、蹴りにしても女の子だった為に、一撃が軽く、悪魔にしては破壊力が足りなくて、実戦では目立った活躍は出来なかったのだと彼女は語っている。
それでも、彼女の格闘センスは群を抜いていた為か、師匠は、そんな彼女を弟子として愛してくれていたらしい。
彼女も、自分を一人前に扱ってくれる師匠が大好きだった。だから、大悪魔時代、彼女は師匠にずっとついていった。そして、万が一、師匠の身に何かあるようであれば、彼女自身が楯となり、命を懸けて彼を守ると心に誓っていたのだそうだ。
そんな師匠を殺し、彼の魔力を奪い取ったのが、耀公主であり、今の彼女だった……。
彼女と師匠の戦いは、一進一退の攻防が続いていた。先程と違い、お互いの重力質量転換操作は
彼らの流派では、基本、一方が前に出て、他方がダンスの様に引いて間合いを合わせる。その間合いの中で、お互い突きや蹴りを交えるとのことであった。
単純な肉弾戦では、元の体格差で師匠の側に分があると僕は思う。でも、彼女には他の大悪魔の能力が八つもあるのだ。それを利用すれば、男女の体格差などは全く関係ない。恐らく、師匠は彼女に近づくことすら出来はしないだろう。
二人は闘いながら言葉を交わしていた。それは、師弟が、お互いの研究成果を楽し気に検討している姿である様に僕には見えた。
「師匠、さっき見ていたでしょう。私のことは重くも出来ないし、師匠自身を軽くさせもしません。師匠の魔力は、私には通じないのですよ」
「それはどうかな?」
二人の戦いは、左右の突きの連続攻撃が基本の様で、肘、膝、頭、それに前蹴りなどはあまり使われない。また、師匠の動きは一定だが、公主のそれは時に早く、時に遅く、速さのリズムが幾度も変化している。
「それも駄目です。師匠の癖は読んでいます。重くするときは左目を細め、軽くするときは右目を細めるのです。攻撃されてから対応するのなら兎も角、事前に分かった状況で対応するので、一瞬のタイムラグを利用しての攻撃すらも出来ませんよ」
「おい、使い魔の小僧、このお嬢が、何で態々こんなこと言ったのか分かるか?」
師匠は戦いの
「確かに癖を知っているのであれば、隠して闘った方が闘い易いけど……。癖を知っていると云うことを知らせて、相手に負けを認めさせる為ですかね?」
「違うな。そんなことじゃ俺は降参しないな。攻撃する時、態と逆の目を細めればいいだけだろう?」
(成程……)
「いいか、こんなことを言うってことは、お嬢は別の癖も知っているってことだ。『私はいくつも貴方の癖を知っています。これくらいは教えても大丈夫ですよ……』ってな。
目を細める何てのは、さっきも言った通り、癖を抑えることも出来る。後ろを向いていたら分からない。じゃぁ、お嬢は
でも実は、もう何も知らない、単なるハッタリなのかも知れない。これだけのことを戦いの最中に考えさせられたら、自分の集中力を相当奪われるだろう?」
(確かに……)
それにしても師匠は、その名の通り、教え魔だったんだなぁ。
「マサシ、気を抜くなと言ったろう! 氷の兄さんはマサシに手を出さないと言ったが、師匠はそんな約束なぞしていないぞ!」
少し師匠との間を取った彼女が、僕に大声で叫ぶ。その彼女の言葉の通り、師匠は急に僕の方に跳んで来ていたのだ。
そして、僕の喉笛に向けて、彼の強烈な右の貫手を放つべく、その右手を引き絞っている。
その師匠は、勝ち誇ったかの様に、こう言い放った……。
「悪いな、お嬢。これがお前の弱点だ!
我々のチビお嬢とお前とで何が違う?
この男がいるか、いないかだ。こいつを殺せば、お前はその多彩な魔力を、恐らくはもう使うことが出来なくなる。こいつが、俺たち全員の能力を使える、お前の力の源だと俺は判断した。どうだ、違うか?」
僕がいることで、彼女が魔力を使える訳ではない。僕とは全く関係がない。僕がいなくなっても、彼女は何も変わらず闘うことが出来る。何も変わりは無いのだ。
師匠の判断は誤っている……。
でも、僕が死んでも、彼女は平気でいられるのだろうか?