第28話 地下のお部屋
文字数 2,184文字
私はお屋敷の地下のいわゆる悪い人を取り調べるお部屋で、椅子に座っていた。
その横で、床にビリーがひれ伏している。
目の前には、エド様。エドマンド・マクファーレン辺境伯閣下が机を挟んで椅子に座っていた。
まだ、私は愛称で呼んで良いのかしら。この方のことを……なんて、考えていた。
私は、マクファーレン辺境伯閣下が屋敷の外に出てはいけないと言われていたのに、外に出た。しかも、結果的にビリーの逃亡を助けている。
それだけで無く、まだ『トム・エフィンジャー』が潜んでいるかも知れない港の領地まで、正規のルートを通らず出入りをしていた。
そして、『トム・エフィンジャー』に捕まりかけ、この領地を危険にさらしてしまったのである。
交渉が上手くいったのは、単に運が良かっただけ。私は、なんの交渉の材料も持っていなかった。
「マリー、これを」
エド様が、封筒に入った書類を渡してきた。エド様の方は、私をまだマリーと呼んで下さっている。
封筒の中は、『トム・エフィンジャー』から、この領地を去ると告げる署名入りの手紙と何の小細工もしていない帳簿他、元締めの情報を含む裏情報を書いたメモが入っていた。
意外にも、帳簿はしっかりしている。
まぁ、『トム・エフィンジャー』が個人的に使ったお金もかなりあるが、使途不明金として全て記されていた。
「これで、港の方は何とかなる。しばらく……後、2~3ヶ月もすれば、誰でも安全に交流することができるだろう。後は……騎士団の方は厄介だが、それは王都 の問題だしな」
そう、今回お屋敷に来ていて路地裏でゴロツキを斬った騎士は、王都から連れて来た者だ。つまり、王都にもこの領地にも、まだ『トム・エフィンジャー』の息のかかった騎士がいるかも知れないという事。
「さて、ビリー」
エド様は、ひれ伏してるビリーを見る。ビリーは覚悟を決めたように顔を上げエド様を見た。
「申し訳ございません。お嬢……奥様を勝手に連れ出し、危険な目に遭わせてしまいました。俺……私は、どんな処分でも受けます」
そう言って、ビリーはまたひれ伏した。私の行動まで、自分の所為だと庇ってくれている。
「もう、悪いことをしないと誓えるのなら咎めること無く、仕事を与えるが」
エド様が言う。
「そうだな。忠誠を誓ってもらった方が良いか」
ビリーが少し戸惑っている。庶民は、忠誠どころか礼の執り方すら知らない。
だから、教えてあげた。
「ビリー。片膝立てて座って聖なる左手を胸に、そう右に向かって斜め上に、右手は武器を向けないと誓うように後ろに……違う、腰の所にあてたら執事の礼になっちゃうから」
何とか跪いて、礼を執るという形は出来た。うん、リンド夫人の気持ちが少しわかったわ。
「あとは主人になる人の名前を言って、『身命を賭して忠誠をお誓い申し上げます』って言うの」
エド様は、呆れたように私を見ているけど……って何で私? ビリーじゃ無くて。
そう思っていると、ビリーは私の方に向いて跪きなおし、先程教えた礼を執って言う。
「わたくしビリーは、マリー・ウィンゲート様に、一生涯掛け身命を賭して忠誠をお誓い申し上げます」
へ? 私? 私なの?
エド様の方を見ると、返事をしてやれって顔で見られた。
「分かりました。よく励むように」
……で、良かったんだっけ? 答えの方は、知らないんだよね。私も誓う方だと思っていたから。
でも、ビリーは満足そうに「はい」って返事をしていた。
「それでは、ビリー。お前には、孤児院の方を任せようと思う。しばらくはこちらの孤児院の職員と一緒に経営をしてもらって、数年後には責任者として頑張ってくれ。その頃には、アンガス・ベリーが領地責任者をしている予定だから、よく相談してやっていくように」
ビリーは呆けたように、エド様を見ている。
「俺が? 孤児院の責任者?」
「お前なら、ストリートキッズの連中も安心するだろう? 今回の資料で元締めも一網打尽に出来るから、もう子ども達が悪事に手を染める必要も無くなる」
「ありがとうございます。頑張ります」
ビリーは泣きそうな顔で、エド様にお礼を言っていた。
「さて、マリーだが」
良かったねぇって思っていると、私の番が来た。
「はい。エドマンド・マクファーレン辺境伯閣下」
私は、ピッとなってエド様の方を向いた。
エド様が、怪訝そうな顔になる。
「いや、もうエドと呼んでくれないのか?」
「エド……様」
私が戸惑いながら呼ぶと、エド様は安心したような顔になった。
なんだか逆のような気がするわ。
「これから一ヶ月間、朝から晩まで毎日食事の時間もお茶の時間も、リンド殿によるマナーレッスンを受ける事。もちろん、外出禁止だそうだ」
……だそうだ。って、え? 何それ、え? エド様が、決めた処分じゃないの?
「リンド殿が、えらく怒っていてな。俺は、まぁ領主の命令違反をさっ引いても構わないくらいの功績をマリーはあげたから、チャラにしても良かったのだが……」
リンド夫人が怒っている……って、怖いんですけど。
「ああ。今度、屋敷を抜け出したら、王宮に監禁すると王妃様からのお達しもあるからな」
だから、なんで…………?
その横で、床にビリーがひれ伏している。
目の前には、エド様。エドマンド・マクファーレン辺境伯閣下が机を挟んで椅子に座っていた。
まだ、私は愛称で呼んで良いのかしら。この方のことを……なんて、考えていた。
私は、マクファーレン辺境伯閣下が屋敷の外に出てはいけないと言われていたのに、外に出た。しかも、結果的にビリーの逃亡を助けている。
それだけで無く、まだ『トム・エフィンジャー』が潜んでいるかも知れない港の領地まで、正規のルートを通らず出入りをしていた。
そして、『トム・エフィンジャー』に捕まりかけ、この領地を危険にさらしてしまったのである。
交渉が上手くいったのは、単に運が良かっただけ。私は、なんの交渉の材料も持っていなかった。
「マリー、これを」
エド様が、封筒に入った書類を渡してきた。エド様の方は、私をまだマリーと呼んで下さっている。
封筒の中は、『トム・エフィンジャー』から、この領地を去ると告げる署名入りの手紙と何の小細工もしていない帳簿他、元締めの情報を含む裏情報を書いたメモが入っていた。
意外にも、帳簿はしっかりしている。
まぁ、『トム・エフィンジャー』が個人的に使ったお金もかなりあるが、使途不明金として全て記されていた。
「これで、港の方は何とかなる。しばらく……後、2~3ヶ月もすれば、誰でも安全に交流することができるだろう。後は……騎士団の方は厄介だが、それは
そう、今回お屋敷に来ていて路地裏でゴロツキを斬った騎士は、王都から連れて来た者だ。つまり、王都にもこの領地にも、まだ『トム・エフィンジャー』の息のかかった騎士がいるかも知れないという事。
「さて、ビリー」
エド様は、ひれ伏してるビリーを見る。ビリーは覚悟を決めたように顔を上げエド様を見た。
「申し訳ございません。お嬢……奥様を勝手に連れ出し、危険な目に遭わせてしまいました。俺……私は、どんな処分でも受けます」
そう言って、ビリーはまたひれ伏した。私の行動まで、自分の所為だと庇ってくれている。
「もう、悪いことをしないと誓えるのなら咎めること無く、仕事を与えるが」
エド様が言う。
「そうだな。忠誠を誓ってもらった方が良いか」
ビリーが少し戸惑っている。庶民は、忠誠どころか礼の執り方すら知らない。
だから、教えてあげた。
「ビリー。片膝立てて座って聖なる左手を胸に、そう右に向かって斜め上に、右手は武器を向けないと誓うように後ろに……違う、腰の所にあてたら執事の礼になっちゃうから」
何とか跪いて、礼を執るという形は出来た。うん、リンド夫人の気持ちが少しわかったわ。
「あとは主人になる人の名前を言って、『身命を賭して忠誠をお誓い申し上げます』って言うの」
エド様は、呆れたように私を見ているけど……って何で私? ビリーじゃ無くて。
そう思っていると、ビリーは私の方に向いて跪きなおし、先程教えた礼を執って言う。
「わたくしビリーは、マリー・ウィンゲート様に、一生涯掛け身命を賭して忠誠をお誓い申し上げます」
へ? 私? 私なの?
エド様の方を見ると、返事をしてやれって顔で見られた。
「分かりました。よく励むように」
……で、良かったんだっけ? 答えの方は、知らないんだよね。私も誓う方だと思っていたから。
でも、ビリーは満足そうに「はい」って返事をしていた。
「それでは、ビリー。お前には、孤児院の方を任せようと思う。しばらくはこちらの孤児院の職員と一緒に経営をしてもらって、数年後には責任者として頑張ってくれ。その頃には、アンガス・ベリーが領地責任者をしている予定だから、よく相談してやっていくように」
ビリーは呆けたように、エド様を見ている。
「俺が? 孤児院の責任者?」
「お前なら、ストリートキッズの連中も安心するだろう? 今回の資料で元締めも一網打尽に出来るから、もう子ども達が悪事に手を染める必要も無くなる」
「ありがとうございます。頑張ります」
ビリーは泣きそうな顔で、エド様にお礼を言っていた。
「さて、マリーだが」
良かったねぇって思っていると、私の番が来た。
「はい。エドマンド・マクファーレン辺境伯閣下」
私は、ピッとなってエド様の方を向いた。
エド様が、怪訝そうな顔になる。
「いや、もうエドと呼んでくれないのか?」
「エド……様」
私が戸惑いながら呼ぶと、エド様は安心したような顔になった。
なんだか逆のような気がするわ。
「これから一ヶ月間、朝から晩まで毎日食事の時間もお茶の時間も、リンド殿によるマナーレッスンを受ける事。もちろん、外出禁止だそうだ」
……だそうだ。って、え? 何それ、え? エド様が、決めた処分じゃないの?
「リンド殿が、えらく怒っていてな。俺は、まぁ領主の命令違反をさっ引いても構わないくらいの功績をマリーはあげたから、チャラにしても良かったのだが……」
リンド夫人が怒っている……って、怖いんですけど。
「ああ。今度、屋敷を抜け出したら、王宮に監禁すると王妃様からのお達しもあるからな」
だから、なんで…………?