第35話 久しぶりの王宮のお部屋

文字数 958文字

「なんだかこの部屋が我が家の様に感じてしまうのも、おかしな話よねぇ」
 私は疲れた体をソファーに投げ出しながら、ケイシーたちに言った。
「マリー様。お召し替えもせずに何ですか。ここは領地のお屋敷では無いのですよ」
 ケイシーからは窘められてしまうけど。
「長旅のすぐ後に、王妃様に謁見を求められましたものね。仕方ございませんわ」
 クスクス笑いながら、エイダ・アルグリットは言ってくれる。
 王宮での私付きの侍女だけど、今ではすっかり友達のように何でも相談できる頼もしい仲間になっていた。


 そう。王宮に着いて、ビリーたちは使用人用のお部屋に連れて行かれてしまい。
 エドは、着いて早々に仕事をする事になった。
 そして私は、王妃様にご挨拶をという事で、湯あみをさせられ香油でマッサージを受け、コルセットでぎゅうぎゅうに締め付けられドレスを着せられた……と、いう訳。

 自分のだと割り当てられた部屋で、少しくらい無作法な事をしても許してもらいたい。
 という訳で、ケイシーの苦言は無視されて、私はソファーでだらんと手足を伸ばして座っている。

「それにしても良かったの? 私が王都にいる間だけでなく、うちの屋敷の侍女になるだなんて……」
 私はこの際だからエイダに訊いてみた。
 だって、せっかく王宮侍女になってお仕事を頑張っているのに……って、ケイシーと同じ立場になるのか……、ケイシーも身分は王宮侍女だものね。

「わたくしはマリー様付きの侍女ですわ。侍女頭のオリヴィア・フェザーストン様からお話を賜った時に、二つ返事でお受けさせて頂きました」
「そう。ありがとう。心強いわ」
 胸を張って言うエイダに私は微笑みかける。
 ……でも、何だかケイシーに似てきている気もするわ。
「それにしばらくは、フェザーストン様もお屋敷に入って自ら使用人の指導に当たるそうですわ」
「へ? な……なんで?」
「あら、ご存じなかったのですか? ブラッドロー様やフォーブズ様の時もそうされてますから、今回が特別という訳でもございませんでしょう。他にも数人、指導にあたられる方も入りますから」
 心底、意外というのが表情に出ている。

 そんなものなのね。

「刺客やスパイに紛れ込まれても困りますしねぇ」
 ケイシーもため息を吐きながらそう言っている。
 やっぱり、私が無知なだけなのだわ。
 
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