第21話 拾った青年と港町の帳簿
文字数 1,638文字
「マリー様。執務室で旦那様がお呼びでございます」
お部屋でくつろいでいたら、侍女頭のイライザが部屋に私を呼びに来た。
急いで執務室に向かうと、エド様と執事のジュード、領地経営責任者補佐のアンガスまでお部屋で待っていた。
「マリーです。入ります」
そう言って執務室に入る。
「ああ。マリー、すまないな。そちらに座ってくれ」
机で何やら書類を見ていたエド様から、ソファーの方を勧められたので、そちらの方に座る。
エド様も書類を持って来て、私の目の前に座った。イライザが紅茶を入れてくれる。
「今日は、お疲れだったな」
「いいえ。あの方を、お屋敷に入れてしまっても、よろしかったでしょうか?」
エド様は、私を穏やかな目で見て下さった。
「ああ。適切な判断だったと思うよ。それでな。保護したときの様子を少し訊きたいと思ってな」
そう言われたので、私は昼間のことを思い出しながらエド様に報告をした。
「丁度、ケイシーと雑貨屋にお使いに出していて時、わたくし木の上に登っていましたの。その時に、街道にヨロヨロと歩いている殿方をお見かけして駆け寄ったのですわ」
「……それで?」
「最初は、歩いていると思ったのですが。走ろうとして走れていないと言った感じでしたの。ケイシーが買ってきてくれた、ビスケットをものすごい勢いで全部食べてしまっていたから、かなりお腹がすいていたのではないかと思いましたけど……」
「けど?」
ここからは、私の完全なる推測に過ぎなくなるので、言いよどんでいるとエド様から、先を促されてしまった。
「あの。エド様? 港町の領地とこちらの領地の境目は今どうなってますの?」
エド様は、私から意外なことを聞かれたという顔をしたけど、すぐに答えてくれる。
「まだ、合流させるには色々と問題があってな、そのまま封鎖しているよ。他の貴族の領地の境目と同じ扱いだ」
なるほどね。私の推測は正しいかも知れない。
そう思って、エド様に言った。
「わたくしの推測ですが、彼は追われていたのだと思いますわ。領地の境目が封鎖されていたのでしたら、追っていたのは港町の権力を持っているお方でしょうね。彼がこちらに逃げ込んでしまったから、追って来られなくなったのではないでしょうか」
「どうしてそう思う?」
エド様が、少し面白そうなお顔になっている。
「だって、万が一にでも追っ手の方が、こちらで捕まるようなことがあったら、問題になるでしょう?」
「やはり、マリーもそう思うか」
エド様は溜息を吐いていた。
どうなされたのか訊こうと思ったらエド様から言われた。
「あちらの領地がな。ちょっと、厄介な事になっていて……。まぁ、港町特有の荒くれ者は、時が経てばなんとかなるものだが、帳簿がな」
そう言いながら、私に帳簿を渡してきた。港町の、領主様がいた頃からの帳簿。
一見、正常に運営されているようにも見える。
……だけど、これは。
「どうして、毎年コピーしたように、同じような金額が同じ時期に、上がっているのですか? 私は、港町の事情には明るくありませんが、それでもおかしいと思います。だって、海が荒れて不漁だった年もありましょうし、隣接しているのですから、こちらと同じ時期にあった災害の積み立て金の取り崩しがないのも変な話だと思うのですが」
多分、言わなくてもエド様には分かっていることだろうと思ったのだけれど、私は一生懸命、この帳簿から読み取れることを言った。早く、私も戦力になれると認めて貰いたかった。
「つまりは、帳簿と実体が合っていないということだよ。それを、調べているところに今日の青年だ」
私が帳簿から読み取ったことを聞いて、エド様は溜息交じりにそう言う。
そして、少し間があいたと思った頃。
ガタンッ、バタンッ。バタバタバタ。
私たちが話し合っている3階にまでも聞えるような大きな物音が、階下から響き渡ったのであった。
お部屋でくつろいでいたら、侍女頭のイライザが部屋に私を呼びに来た。
急いで執務室に向かうと、エド様と執事のジュード、領地経営責任者補佐のアンガスまでお部屋で待っていた。
「マリーです。入ります」
そう言って執務室に入る。
「ああ。マリー、すまないな。そちらに座ってくれ」
机で何やら書類を見ていたエド様から、ソファーの方を勧められたので、そちらの方に座る。
エド様も書類を持って来て、私の目の前に座った。イライザが紅茶を入れてくれる。
「今日は、お疲れだったな」
「いいえ。あの方を、お屋敷に入れてしまっても、よろしかったでしょうか?」
エド様は、私を穏やかな目で見て下さった。
「ああ。適切な判断だったと思うよ。それでな。保護したときの様子を少し訊きたいと思ってな」
そう言われたので、私は昼間のことを思い出しながらエド様に報告をした。
「丁度、ケイシーと雑貨屋にお使いに出していて時、わたくし木の上に登っていましたの。その時に、街道にヨロヨロと歩いている殿方をお見かけして駆け寄ったのですわ」
「……それで?」
「最初は、歩いていると思ったのですが。走ろうとして走れていないと言った感じでしたの。ケイシーが買ってきてくれた、ビスケットをものすごい勢いで全部食べてしまっていたから、かなりお腹がすいていたのではないかと思いましたけど……」
「けど?」
ここからは、私の完全なる推測に過ぎなくなるので、言いよどんでいるとエド様から、先を促されてしまった。
「あの。エド様? 港町の領地とこちらの領地の境目は今どうなってますの?」
エド様は、私から意外なことを聞かれたという顔をしたけど、すぐに答えてくれる。
「まだ、合流させるには色々と問題があってな、そのまま封鎖しているよ。他の貴族の領地の境目と同じ扱いだ」
なるほどね。私の推測は正しいかも知れない。
そう思って、エド様に言った。
「わたくしの推測ですが、彼は追われていたのだと思いますわ。領地の境目が封鎖されていたのでしたら、追っていたのは港町の権力を持っているお方でしょうね。彼がこちらに逃げ込んでしまったから、追って来られなくなったのではないでしょうか」
「どうしてそう思う?」
エド様が、少し面白そうなお顔になっている。
「だって、万が一にでも追っ手の方が、こちらで捕まるようなことがあったら、問題になるでしょう?」
「やはり、マリーもそう思うか」
エド様は溜息を吐いていた。
どうなされたのか訊こうと思ったらエド様から言われた。
「あちらの領地がな。ちょっと、厄介な事になっていて……。まぁ、港町特有の荒くれ者は、時が経てばなんとかなるものだが、帳簿がな」
そう言いながら、私に帳簿を渡してきた。港町の、領主様がいた頃からの帳簿。
一見、正常に運営されているようにも見える。
……だけど、これは。
「どうして、毎年コピーしたように、同じような金額が同じ時期に、上がっているのですか? 私は、港町の事情には明るくありませんが、それでもおかしいと思います。だって、海が荒れて不漁だった年もありましょうし、隣接しているのですから、こちらと同じ時期にあった災害の積み立て金の取り崩しがないのも変な話だと思うのですが」
多分、言わなくてもエド様には分かっていることだろうと思ったのだけれど、私は一生懸命、この帳簿から読み取れることを言った。早く、私も戦力になれると認めて貰いたかった。
「つまりは、帳簿と実体が合っていないということだよ。それを、調べているところに今日の青年だ」
私が帳簿から読み取ったことを聞いて、エド様は溜息交じりにそう言う。
そして、少し間があいたと思った頃。
ガタンッ、バタンッ。バタバタバタ。
私たちが話し合っている3階にまでも聞えるような大きな物音が、階下から響き渡ったのであった。