第66話 婚礼の儀の当日
文字数 2,280文字
その日は気候も最高で、ものすごく良い天気だったの。
「お……お父様。わたくし、今にも倒れそうです」
私は、真っ白なウエディングドレスに身を包み。椅子に座って、カタカタと震えていた。
ここは新婦の控室。
今日、このお部屋にいるのは王妃様の家族ごっこの家族ではなく、本当のお父様とお兄様。
「私にしっかりつかまって歩けば、大丈夫だ。こけそうになってもちゃんと支えるからな」
お父様は、いつになく真剣に私に言ってくれている。
「まぁ、こけて笑い者になっても今さらだろう?」
エイベルお兄様は諦めたように言っていた。
愛の無い婚姻を結ばされる令嬢でもあるまいに、なんでエド様との婚礼の儀の当日に震えているのかと言うと……。
「わたくしの時も、こんな感じ……なのでしょうか?」
私と同じ衣装を着てブライズ・メイドを務めるメアリー様も少し怯えた感じで訊いてくる。
「英雄様との婚礼はお三方とも、同じ規模で行われるでしょうな」
お父様が、メアリー様の素朴な疑問も拾って答えてあげていた。
いやあの、絶望させてどうするの? お父様。
もう殆ど、王族と同じ規模で執り行われるので、各国の国王方が、とまではいかないにしろ同盟国の王族の方々まで参列するような大々的な儀式になってしまっていた。
婚礼の儀の後に成婚のパレードまであって、沿道の人々ににこやかに手を振って……って。
…………聞いてないわ、こんなのって。
「まぁ。何という事でしょう。公爵令嬢ともあろうお方が、下を向いて震えていらっしゃるなんて。許されることではございませんわよ」
ピシャッと言う声がした。
リンド夫人?
顔を上げて声をした方を見ると、そこにはジョゼが立っていた。
「マリー。おめでとう」
「ありがとうございます」
「さすがに殿下たちは、花嫁の控室に来れないので、わたくしが代表で来ましたの」
そう言って、後ろに控えていた侍女が恭 しく持っていたものを、私の上げた後ろ髪に着けてくれた。
白い花びらが幾重にも重なったような宝石のついた、素敵な髪飾り。
「これは、王妃様が婚礼の儀の時に着けたものですのよ。ご実家で代々娘に伝えるものなので、我が娘マリーに……と」
お……恐れ多すぎる。ごっこ遊びの娘なのに。
「王妃様からの伝言もありますわ。『わたくしが付いているのですから、大丈夫よ』ですって」
ジョゼがクスクス笑いながら言っていた。
「そして、わたくしからはハンカチですわ。これは後で返してくださいませね」
ハンカチ? ジョゼから借りるの?
疑問に思いながらも、白いレースと凝った刺繍のついたハンカチを受け取った。
「これで、サムシング・フォー。全てが揃いましたわ」
あっ、そうか。幸せな花嫁になれるおまじない。
なにか一つ古い物は王妃様の髪飾り。
なにか一つ新しい物はこの為に新調した白い手袋。
なにか一つ借りた物はジョゼのハンカチ。
なにか一つ青い物は純潔だけど、ガータのリボンが青かったのはこの為だったのね。
4つのサムシングに
「それならコインもいるな」
いつの間にか、エド様も来ていて私の前に跪いてそっとドレスの中の足、靴の中に銀貨※を滑り込ませてくれる。
「靴にはコインをだろ?」
そうなのだけど、新郎とは言えまだ婚礼の儀が終わってないのに、ドレスに手を入れられるなんて、恥ずかしいわ。
そう思って、周りを見たらみんなそっぽ向いていた。メアリー様まで……少し、お顔が赤いけど。
「マリー。立って見せてくれないか?」
立ち上がってエド様が、私に手を差し伸べてくれる。私はその手を取りゆっくり立ち上がった。
メアリー様と侍女たちが、私のドレスを直してくれて私から離れた。
「とても綺麗だ。マリー」
私を見つめて嬉しそうな笑顔でエド様が言ってくれる。
「ありがとうございます。だけど、また失敗したらどうしようかと」
私は、人生の大切な時にいつも失敗してるから。
「ああ、なんだ。良いじゃないか、失敗しても」
「え? でも」
「意外とな。上手くいった事は、忘れてしまうんだ。印象深い一幕だったと思えば、失敗も悪くない。それに、俺も一緒だからな」
ああ、そうだった。1人じゃない。
エド様の下にはお父様が連れて行ってくれるし、その先はずっとエド様と一緒だ。
そうして一足先に、エド様は大聖堂に向かい。
私は馬車でお父様と一緒に向かった。
大勢の人たちが見守る中、私は堂々と歩くことが出来。
その日、私はマリー・マクファーレンになった。
婚約編 おしまい
すみません。新婚編の前に少しお休みをいただきます。
王室の秘密とエド様のお家の事情は、新婚編以降までゆっくり持ち越していく予定です。
今、書き溜めていたものが枯渇してしまっていて、焦って書くと違うものが出来上がってしまうので……。
待っていただけると嬉しいです。
それでは読んで頂いて、感謝しかありません。
※サムシング・フォーのandで、靴に入れるのは6ペンスコインなのだけど、通貨単位が違うので。
サムシング・フォー(和製英語)については、諸説ありますが、この世界では伝統的なおまじないと言う事にしました。(この世界にマザーグースの本、無いですから)マリーは、母親からの古い物が手に入らないので諦めてたようです。
「お……お父様。わたくし、今にも倒れそうです」
私は、真っ白なウエディングドレスに身を包み。椅子に座って、カタカタと震えていた。
ここは新婦の控室。
今日、このお部屋にいるのは王妃様の家族ごっこの家族ではなく、本当のお父様とお兄様。
「私にしっかりつかまって歩けば、大丈夫だ。こけそうになってもちゃんと支えるからな」
お父様は、いつになく真剣に私に言ってくれている。
「まぁ、こけて笑い者になっても今さらだろう?」
エイベルお兄様は諦めたように言っていた。
愛の無い婚姻を結ばされる令嬢でもあるまいに、なんでエド様との婚礼の儀の当日に震えているのかと言うと……。
「わたくしの時も、こんな感じ……なのでしょうか?」
私と同じ衣装を着てブライズ・メイドを務めるメアリー様も少し怯えた感じで訊いてくる。
「英雄様との婚礼はお三方とも、同じ規模で行われるでしょうな」
お父様が、メアリー様の素朴な疑問も拾って答えてあげていた。
いやあの、絶望させてどうするの? お父様。
もう殆ど、王族と同じ規模で執り行われるので、各国の国王方が、とまではいかないにしろ同盟国の王族の方々まで参列するような大々的な儀式になってしまっていた。
婚礼の儀の後に成婚のパレードまであって、沿道の人々ににこやかに手を振って……って。
…………聞いてないわ、こんなのって。
「まぁ。何という事でしょう。公爵令嬢ともあろうお方が、下を向いて震えていらっしゃるなんて。許されることではございませんわよ」
ピシャッと言う声がした。
リンド夫人?
顔を上げて声をした方を見ると、そこにはジョゼが立っていた。
「マリー。おめでとう」
「ありがとうございます」
「さすがに殿下たちは、花嫁の控室に来れないので、わたくしが代表で来ましたの」
そう言って、後ろに控えていた侍女が
白い花びらが幾重にも重なったような宝石のついた、素敵な髪飾り。
「これは、王妃様が婚礼の儀の時に着けたものですのよ。ご実家で代々娘に伝えるものなので、我が娘マリーに……と」
お……恐れ多すぎる。ごっこ遊びの娘なのに。
「王妃様からの伝言もありますわ。『わたくしが付いているのですから、大丈夫よ』ですって」
ジョゼがクスクス笑いながら言っていた。
「そして、わたくしからはハンカチですわ。これは後で返してくださいませね」
ハンカチ? ジョゼから借りるの?
疑問に思いながらも、白いレースと凝った刺繍のついたハンカチを受け取った。
「これで、サムシング・フォー。全てが揃いましたわ」
あっ、そうか。幸せな花嫁になれるおまじない。
なにか一つ古い物は王妃様の髪飾り。
なにか一つ新しい物はこの為に新調した白い手袋。
なにか一つ借りた物はジョゼのハンカチ。
なにか一つ青い物は純潔だけど、ガータのリボンが青かったのはこの為だったのね。
4つのサムシングに
「それならコインもいるな」
いつの間にか、エド様も来ていて私の前に跪いてそっとドレスの中の足、靴の中に銀貨※を滑り込ませてくれる。
「靴にはコインをだろ?」
そうなのだけど、新郎とは言えまだ婚礼の儀が終わってないのに、ドレスに手を入れられるなんて、恥ずかしいわ。
そう思って、周りを見たらみんなそっぽ向いていた。メアリー様まで……少し、お顔が赤いけど。
「マリー。立って見せてくれないか?」
立ち上がってエド様が、私に手を差し伸べてくれる。私はその手を取りゆっくり立ち上がった。
メアリー様と侍女たちが、私のドレスを直してくれて私から離れた。
「とても綺麗だ。マリー」
私を見つめて嬉しそうな笑顔でエド様が言ってくれる。
「ありがとうございます。だけど、また失敗したらどうしようかと」
私は、人生の大切な時にいつも失敗してるから。
「ああ、なんだ。良いじゃないか、失敗しても」
「え? でも」
「意外とな。上手くいった事は、忘れてしまうんだ。印象深い一幕だったと思えば、失敗も悪くない。それに、俺も一緒だからな」
ああ、そうだった。1人じゃない。
エド様の下にはお父様が連れて行ってくれるし、その先はずっとエド様と一緒だ。
そうして一足先に、エド様は大聖堂に向かい。
私は馬車でお父様と一緒に向かった。
大勢の人たちが見守る中、私は堂々と歩くことが出来。
その日、私はマリー・マクファーレンになった。
婚約編 おしまい
すみません。新婚編の前に少しお休みをいただきます。
王室の秘密とエド様のお家の事情は、新婚編以降までゆっくり持ち越していく予定です。
今、書き溜めていたものが枯渇してしまっていて、焦って書くと違うものが出来上がってしまうので……。
待っていただけると嬉しいです。
それでは読んで頂いて、感謝しかありません。
※サムシング・フォーのandで、靴に入れるのは6ペンスコインなのだけど、通貨単位が違うので。
サムシング・フォー(和製英語)については、諸説ありますが、この世界では伝統的なおまじないと言う事にしました。(この世界にマザーグースの本、無いですから)マリーは、母親からの古い物が手に入らないので諦めてたようです。