第54話 午後からの過ごし方 お茶会と王妃様

文字数 1,635文字

「全く、何を考えていらっしゃるのかしら、グラントリー殿下は」
 まだ、ジョゼ様は怒ってる。
 あの後、婦人会の皆様を交えて王宮の奥の庭園にあるガゼボ※で、簡易的なお茶会を開いていた。

「で……でも、まだ1日中働かされたわけでは無いですから。初日ですし」
 私はそう言って王太子殿下を庇ったのだけれど。
「何をおっしゃいますの? こういうのは最初が肝心なのですわ。1度でも既成事実を作られてしまったら、1日中女性を表で働かせても良いことになってしまいますわ」
「そうそう、しかも身内の女性だからって言って無給で……なんて、あってはならない事ですわ」
「それに、お肌の手入れをする時間もくださらないなんて、婚姻前の女性を何だと思ってるのでしょう」
 ジョゼ様だけでなく、何か皆様すごく怒っていらしゃるような。

「あ、あの。皆様その情報はどこから……」
 私がそう訊くと、何を言ってらっしゃるの? と言う目で皆様から見られてしまった。
「執務室付きの侍女に決まっているでしょう? 午前中、詰めてた者がマリー様は午後もお仕事をさせられる。しかも、お給金の取り決めもなさらず、王太子殿下がいきなり仕事を押し付けていたと」

「マリーは、おおかたエドマンド様の為にと頑張っていたのでしょうけど、ダメよ。殿方に良いように利用されてしまうわ」
 ジョゼ様が、優しく私に言って下さる。
「そうですわ。夫に家や領地の事を押し付けられたまま、浮気され放題で泣いている貴族夫人も多いのですのよ」
 確かにうちの母もそうだけど……ただ、領地の事も何もかも執事に押し付けているわ。
 私は……そうね。家や領地の事を押し付けられるのは構わないのだけど、浮気……は嫌だなぁ。エド様の事信じてないわけでは無いけど、貴族の殿方は愛妾を持っている方が普通だものね。

「あら、皆様はまだ良いじゃないの。わたくしなんて、確定で側妃を迎えなくてはならないもの」
 そっか、今の王妃様も王子様2人産んだ後、国王陛下は側妃を2人お持ちになっているものね。
 どんな気分なんだろう? そういうのって……。

 私はお茶会で、皆様の会話を聞きながらそんな事を考えていた。




「グラントリーにも困ったものだわね。マリーのお給金はきっちりこの期間が終わったら支払うので、安心してちょうだいな」
 談話室に行って王妃様に会ったら、いきなり言われてしまった。
 もう、連絡が言っているんだ、早いわ。

「あ……いえ、私は給金を頂けるような仕事は……」
「本格的に席を貰って、書類のチェックをさせられていたのだろう? 遊び気分で、机を見て周るのとは訳が違う。あれは、マクファーレン領に行ってから覚えたものではないよね」
 なんだろう、王妃様の言葉遣いが……いえ、言葉遣いだけでなく雰囲気まで、まるで。

「わたくしの……ウィンゲート領にいた頃、執事といつも一緒にいて仕事中も付いてまわって……見よう見まねの拙い意見ですわ」
「16歳……だっけ。領地を遊んでまわって色々な視野から物事を見ることを覚えて……その上、ウィンゲート家の頭の良さを持っている……か。しまったな」
 なんだろう……なんだか嫌な予感がする。王妃様が、違う人に見える。

「あ……あの、わたくし、王室に逆らうつもりも、敵対するつもりもございません。夫になるエドマンド・マクファーレンと同様、忠誠を誓って」
「ああ、そうじゃなくてね。マリーの事は信頼しているよ。ただねぇ、こんなに能力があるのならエドマンドにあげるのは勿体なかったなって……。後ね、親しい人の前では私はいつもこんな感じだから……怖い? 私が」
「いえ……えっと、少し怖いです」

 私がそう言ったら、王妃様は盛大に笑いだした。
「なんとも、正直な事だ。だから好きなんだよ、マリーの事が」

 なんか、怖がって損した気分になってしまったわ。



※ガゼボ……西洋風東屋(パビリオンの一種)
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