第22話 港側の孤児院 エドと指導騎士の訪問

文字数 1,580文字

「ようこそお越しくださいました、領主様。どうぞ、応接室の方へ」
 子ども達の世話をしていたメリーおばさんが、エドを応接室へ案内しようとした。
「あっ、いや。すぐに出て行くからここで。ビリーを呼んできてくれ」
 入り口から少し入ったことろで、エドが立ち止まりそう言う。
 ビリーおばさんが、かしこまりましたと言って奥に入るとエドは私を見た。
「2人の説得は上手くいたか?」
「ええ。来週から上の学校に通えるように手続きを取ってもらいますわ」
 私が直接手続きをするわけには、いかないものね。
 後でアンガスに言っておかないと。

「そうか。なら丁度良い。剣術の指導をする騎士に2人の顔見せをさせようと思ってな」
 エドが体をずらすと、後ろに年若い騎士が礼をして立っていた。
「顔見せ? ですか」
「ああ。指導が始まれば上の学校から他の生徒と直接、騎士団の方に来ることになるからな」
 なるほどね。学校は午前中で終わるから、そのまま行って午後から剣術の練習に入るのね。
「昼食はどうなさいますの? お腹が空きますわよね」
「騎士団の食堂で食わせるさ。みんなそうしている」
「そうでしたの」
 それなら安心ですわね。

「お待たせいたしました。ご領主様」
 ビリーが、少し慌てたようにやって来た。
「ああ。気にするな。来週から来る子どもたちを紹介してくれ」
 エドが言うと、ビリーは私の方を見た。
「2人とも、学園を受験することを了承しましたわ」
 だから、私はにっこり笑ってビリーに言った。

「ドム。ヘンリー。立て」
 ビリーの命令(?)に従って、2人とも立った。
 お菓子を夢中で頬ばってた子ども達も注目している。
「右からドムとヘンリーです。ドムは14歳、ヘンリーは12歳になりました」
ビリーがそう言うと、エドではなく、後ろに控えていた騎士が前に出て来て
「ボブです。騎士職を賜っておりますが、この領地の出身で平民です。数年前から子ども達の剣術の指導と相談役をしています」
 丁寧に自己紹介をした。
「平民でも、騎士になれるのかよ」
 思わずと言った感じで、ドムが訊く。
「こら。ドム」
 ビリーが慌てて咎めたけど
「努力次第かな? 剣の腕前と、教養、礼儀作法等で優秀な成績を収めればなれると思うよ」
 ボブは意に介さずそう教えてくれていた。
 ドムとヘンリーは、うへーという顔をしたけど。
 うん。うん。その気持ち、わかるわー。
 イヤなものよね。礼儀作法とか、貴族の教養とか……。
 
 2人に同意するようにうなずいていたら、ケイシーからものすごくイヤな顔をされてしまった。
 ……って、ケイシーだって王宮にいる時と態度がすごく違っているからね。

「さて、とりあえず用事はすんだ。帰るかマリー」
「あっ、はい。旦那様」
 みんなの前だから、私は旦那様呼びをした。公の場だと、エドマンド様って呼ぶのだけど。
 本当にこれだけの用事なんだ。
「剣術の練習に来る子どもの家には、指導者を連れて挨拶に行っているんだよ。本当に親と本人が納得しているのか確認する為に」
 私、顔に出てたのかしら? エドが説明してくれた。
「そうでしたのね」
「ああ。騎士になると、国王陛下に忠誠を誓い、時にその命すら国の為に差し出さねばならないからな。衛兵だってそうだ。寄せ集めの雑兵の様に逃げ出すことは許されない」

 ああ。そうか、そういう厳しい立場になると、あえて子ども達に聞かせるようにしているのだわ。
 その事実を知っても、ドムやヘンリーはなりたいと思うのかしら。
 そう思って、彼らの顔を見たら真剣そのものだった。
「ボブ……いや、騎士様。来週からよろしくお願いします」
 ドムは思いっきり頭を下げている。
「よろしくお願いします」
 ヘンリーも、ドムに倣うように頭を下げていた。
「ああ。頑張ろうな」
 2人から頭を下げられたボブは、騎士というよりは、気の良い村のお兄さんと言った感じだった。
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