第37話 夜会 マリーのデビュタント エド側の話 

文字数 1,860文字

 結局、マリーと会えたのはデビュタント後の夜会だった。
 俺を見るなり、泣きそうな顔をする。軽く抱き寄せるとホッとしたような、気配を感じた。

 案の定、愛妾の息子も来ている。マナーも何もなっていない。公爵の息子という事で、自分の方が立場が上だと思っているのだろう。
 令嬢ならまだしも、親の爵位が通用するのは、未成年の間だけだと知らないのだろうか。
 なんだか……怒る気にもなれんな。エイベルの方は、自分の地位が伯爵と言うので、ちゃんと俺に礼を執っている。
 俺は、エイベルの方と少し談笑して予定通り挨拶回りを促した。

 王太子殿下から、予定通り声をかけられた。
 そしてマナー違反をしたクレイグがお叱りを受け、礼を執ったまま固まってしまってしまっている。怖いくらいに、計画通りだ。
 まぁ、クレイグがこの夜会にエスコート役として参加した時点で、自分の立場も分からぬ愚か者なのだろうとは思っていたのだが。

 そして、王太子殿下は予定通りマリーにお祝いの言葉を言い、婚約者ジョゼフィン様の友人にという話をしている。
 その話に、マリーが慌ててしまった。
「わ……わたくしなど、滅相もございません。公爵令嬢とは名ばかりの田舎娘にございます」
 あろう事か、王太子殿下にパタパタ手を振りながら言ってしまっていた。

 王太子殿下には、王妃から言ってもらっていて良かった。
 マリーの態度に、エイベルは真っ青になっている。デビュタント後の夜会は、多少失敗してもご愛敬で済ますのがルールだと言っても……これはあんまりであろう。
 王太子殿下は、演技でなく、本気で吹き出しているようだが……。

 多少のハプニングはあったが、取りあえず予定通りと言って良いだろう。
 王室は、愛妾の息子を跡取りにすることを表向きは禁じていない……が、今までそういう動きを全て封じ、潰してきた。
 王室自体も、側室や愛妾、その子どもが王族として、表舞台に出たことはない。
 これも、賢者様のご意向という事らしい。

 社交界の方は王太子殿下のお叱りを受けた時点で、もう彼を受け入れることはないだろうが。
 今夜は、ウィンゲート公爵家の方は一荒れあるだろう。マリーは避難させた方が良い。

 ダンスの後、俺はマリーを夜食室に誘った。
 ここは簡易個室になっていて、夜食を食べるだけでなく逢い引きに使われたりもするのだけど、今日はそんなことも無いだろう。
 目の前で、マリーは夜食の綺麗さに感動して、一生懸命食べている。

「なぁ、マリー。今夜は俺の屋敷に戻るか? 部屋ならすぐに用意できるから」
 そう提案した俺に、マリーは難色を示す。
 だが、今日、俺をみたとき、お前は泣きそうな顔をしてたじゃないか。
 そう思って、優しくマリーを抱きしめて言う。

「マリー、俺の屋敷においで」
 そしたら、マリーから思いっきり両手で突っ張られてしまった。
 そう来るとは思わなかったので、思わず身体が離れてしまう。
 マリーの手は、まだ俺の胸の辺りにあるが、顔は下を向いている。
「……今、エド様に甘えてしまったら、私一生自分の足で立てなくなってしまいます」
「マリー?」
 別に、甘えてくれても構わないが……と言いそうになる。
「嫌なんです。このまま、エド様の足手まといになってしまうのは……。今は無理でも、私は胸を張ってエド様の横にいたい……対等になりたいのです。だから……」
 マリーがやっと顔を上げた。まだ、泣きそうな顔をしているけど……。

 そうか、そうだな。マリーは、保護しなければならないような、子どもじゃない。
 ちゃんと勉強し、知識もある。自分で考える頭も行動力もある。
 うちの執事ですら、即座に認めたじゃないか。
 そして俺がもたもたしているうちに、『トム・エフィンジャー』を領地から追い出した功績は、王妃様も認めている。でないと、何も出来ない子どもを利用しようなどとは言い出さない。

 俺は、マリーに助言を与えた。
 判断を誤らないように、クレイグに同情しないように。
 そして、まだマリーが子どもだと思って、先延ばしにしようと思っていたことを告げる。
「もうそろそろ、婚礼の儀の準備もしないといけないし。一週間後くらいに領地へ戻ろうか」
 マリーは、戸惑ったようだけど少し顔を赤くして
「はい」
 と返事をくれた。
 俺は、マリーの額にキスをした。本当は、口にしたかったのだけど……。

 そうして、二人で会場に戻って行った。
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