第15話 孤児院の慰問後

文字数 1,253文字

 港側の孤児院もその後、こちらの孤児院同様、応接室で近況を訊いて戻って来た。
 こちらの方は、目新しいものは何も無い。
 当面は、まだ残っているストリートキッズの保護を優先する。
 思ったより難航していたのはドムが言っていた通り、責任者であるビリーが貴族に尻尾を振っている裏切り者だと、子ども達から思われている事だろう。
 運営自体は、世話役の地元の女性。通称メリーおばさんが、まかないを担当し幼い子どもの面倒を見てくれているし……ああ、清掃や洗濯等は子ども達の当番制。
 こちら側の孤児院と同じ感じだ。そのうち、畑の世話も担当させなければね。
 年長者には、手に職をつけさせなければならないし……。


 部屋で紅茶を頂きながらそんな事を考えていると、いつの間にか戻って来ていたエド様がソファーの私の横に座って来た。
 なんだかとても機嫌が良さそう。
 何か良い事でもあったのかしら?

「あの。エド? 何か良い事でもありましたの?」
 分からない事は、素直に訊くに限るわ。
「ああ。今日は、久しぶりに木の上のマリーを見たからな」
 は? なんで?
「は……はしたないマネをしてすみません」
「恐縮するな。俺は最近のマリーを見ていて、婚姻を結んでしまったせいで無理をさせているんじゃないかと、これでも気にしていたんだ」
「でも、エドの妻になったのですから……」
「それだよ。俺の妻になったからって、急に大人になる必要は無いだろう? まだ、16歳なんだから、今まで通りでいてくれ」
 その方が安心すると言われてしまっているようで……。
「そう……ですわね」
 何だか、胸がほっこりする。

「孤児院の方は、どうだろう? 何とかなりそうかな?」
 何とか……?
 私が疑問に思ってエドの方を見ると。
「ああ。その内にこちら側とあちら側の孤児院を1つにまとめようと思っているのだが。こちら側の孤児院は、人数も少なくなったからな」
 そうよね。また大規模な災害でも起きて……もしくは、領地が戦地になって大勢の人が犠牲にならない限り、そうそうこの領地で孤児は生まれないものね。

「そうなのですか。かしこまりました。ただ、港側が落ち着くまではまだ時間が掛かるようですし、当面はこのままの方が良いのでしょうね」
「そうなのか?」
「ええ。ビリーが子ども達から、裏切り者だと思われているようですので……」
 私がそう言うと、エドがほう? と言う顔で見てくる。
「なるほどな。俺たち側の人間になったと思われたわけだ。まぁ、便宜上の貴族になっている訳だからな」
 そう……ビリーは、立場上貴族の前にも出なければならなくなったから、下位貴族扱いになっている。
 孤児院はどの領地でも教会の管理下なので、ビリーもここの管理を任された時点で、一代限りの準男爵扱いだ。
 王都で叙勲されたわけじゃないから、正式なものでは無い。だけど領地内のみ、その身分でかまわないと言うのが、慣例になってしまっているのだ。

「そういう意味では、信頼を取り戻すのは時間が掛かるか……」
 なるほどなぁ、なんてエドはうなっていた。
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