第17話 マリー・ウィンゲートと雑貨屋
文字数 1,511文字
エド様からお小遣いを貰ったわ。
「町に行くのなら、買いたい物も出てくるだろう? ただ、必ず侍女を連れて行くんだぞ」
エド様は、そう言ってくださった。本当は、エド様と行きたかったのだけど。
新しい領地のことや、移動になったばかりの辺境警備のお仕事で、しばらくは休みが取れないらしいから、仕方が無いわね。
午前中は、リンド夫人のマナーレッスン。
だいぶ、かたちになってきたと思うわ。リンド夫人からのダメ出しも減ってきたから。
エド様の為と思ったら、やっぱりやる気が出るみたい。
「と言うことで、私は暇なんだよね」
……多分、リンド夫人の前で言ったら、『何が暇なものですか。覚えることが山程ありますわよ』と言って、またお説教が始まるだろう。
私が今いるのは、村の中の雑貨屋さん。今回は、エド様に言われたとおり侍女のケイシーと一緒に来ている。
色々な物が置いてあって、いつまでいても見飽きない。
「マリー様。ジンジャービスケットはいかがですか?」
雑貨屋の店主のジェラルドが勧めてきた。
「ありがとう。いただくわ」
そう言って、ケイシーの分と2枚取ってお金を渡そうとした。
「いえいえ、領主様の奥方になるお方に、代金など……」
「ダメよ。受け取ってくれなくちゃ。労働には対価が必要なの。これを作るためには、小麦を始め色々な材料が必要だわ。ジェラルドさんは、それをただで貰ったりはしてないわよね。そうして、奥さんが丁寧に作った労力。それを私がただで貰ったりしたら、良心の呵責 で味が分からなくなってしまうわ」
「そんなものですかね。大げさなような気もしますが……」
ジェラルドは、腑に落ちないという表情で私からお金を受け取った。
大げさなように感じるかも知れないけど、これは大切なことよ。
最初に、無料 で貰ってしまうと、次も次もと私からはお金が取れなくなってしまうかも知れないもの。
逆に、店主の方が、親しくなったからと、後々自分だけ優遇してもらえると思うかも知れない。そう思っているうちにふと気になった事を訊く。
「もしかしたら、お屋敷の誰かが無料 で何か貰っていったりしているの?」
「ああ。いえ、今の領主様になってからは、どなたもそういう事はありません」
「今の領主様って、エドマンド様の事よね」
「ええ。そうです。ここは10年くらい前に、前の領主様が王族のご不興を買ったとかで、領地を取り上げられているのです。その後に、マクファーレン様が領主に就任されまして、随分暮らしやすくなりました」
「まぁ、そうでしたの。では、わたくしもエドマンド様を見習わなくては」
「そうですわねぇ」
ケイシーも同意してくれた。それに気をよくした私は、手にしていたジンジャービスケットを一口食べる。
「おいしいわ。本当に、雑貨屋さんのジンジャービスケットって、何でこんなに美味しいのかしら」
「こちらも美味しいですよ。野菜入りのビスケット」
「まぁ。太ってしまうわ。どうしましょう」
そう言いながら、ついついお金を払って、ケイシーと食べてしまった。
「畑から直で来てますからね。新鮮な野菜入りだから美味しいんですよ」
エヘンとばかりにジェラルドが言ってくる。
「ああ。それで、お屋敷のよりもおいしいのね。でも、やっぱり奥さんの腕も良いのだわ。
ねぇ、ケイシー食べてばかりも何だから、明日は畑の方にも行ってみない?」
「それは、良いですねぇ」
「では、明日行く前にお寄りください。案内して差し上げます」
ケイシーもジェラルドも、それは良いとばかりに賛同してくれた。
「町に行くのなら、買いたい物も出てくるだろう? ただ、必ず侍女を連れて行くんだぞ」
エド様は、そう言ってくださった。本当は、エド様と行きたかったのだけど。
新しい領地のことや、移動になったばかりの辺境警備のお仕事で、しばらくは休みが取れないらしいから、仕方が無いわね。
午前中は、リンド夫人のマナーレッスン。
だいぶ、かたちになってきたと思うわ。リンド夫人からのダメ出しも減ってきたから。
エド様の為と思ったら、やっぱりやる気が出るみたい。
「と言うことで、私は暇なんだよね」
……多分、リンド夫人の前で言ったら、『何が暇なものですか。覚えることが山程ありますわよ』と言って、またお説教が始まるだろう。
私が今いるのは、村の中の雑貨屋さん。今回は、エド様に言われたとおり侍女のケイシーと一緒に来ている。
色々な物が置いてあって、いつまでいても見飽きない。
「マリー様。ジンジャービスケットはいかがですか?」
雑貨屋の店主のジェラルドが勧めてきた。
「ありがとう。いただくわ」
そう言って、ケイシーの分と2枚取ってお金を渡そうとした。
「いえいえ、領主様の奥方になるお方に、代金など……」
「ダメよ。受け取ってくれなくちゃ。労働には対価が必要なの。これを作るためには、小麦を始め色々な材料が必要だわ。ジェラルドさんは、それをただで貰ったりはしてないわよね。そうして、奥さんが丁寧に作った労力。それを私がただで貰ったりしたら、良心の
「そんなものですかね。大げさなような気もしますが……」
ジェラルドは、腑に落ちないという表情で私からお金を受け取った。
大げさなように感じるかも知れないけど、これは大切なことよ。
最初に、
逆に、店主の方が、親しくなったからと、後々自分だけ優遇してもらえると思うかも知れない。そう思っているうちにふと気になった事を訊く。
「もしかしたら、お屋敷の誰かが
「ああ。いえ、今の領主様になってからは、どなたもそういう事はありません」
「今の領主様って、エドマンド様の事よね」
「ええ。そうです。ここは10年くらい前に、前の領主様が王族のご不興を買ったとかで、領地を取り上げられているのです。その後に、マクファーレン様が領主に就任されまして、随分暮らしやすくなりました」
「まぁ、そうでしたの。では、わたくしもエドマンド様を見習わなくては」
「そうですわねぇ」
ケイシーも同意してくれた。それに気をよくした私は、手にしていたジンジャービスケットを一口食べる。
「おいしいわ。本当に、雑貨屋さんのジンジャービスケットって、何でこんなに美味しいのかしら」
「こちらも美味しいですよ。野菜入りのビスケット」
「まぁ。太ってしまうわ。どうしましょう」
そう言いながら、ついついお金を払って、ケイシーと食べてしまった。
「畑から直で来てますからね。新鮮な野菜入りだから美味しいんですよ」
エヘンとばかりにジェラルドが言ってくる。
「ああ。それで、お屋敷のよりもおいしいのね。でも、やっぱり奥さんの腕も良いのだわ。
ねぇ、ケイシー食べてばかりも何だから、明日は畑の方にも行ってみない?」
「それは、良いですねぇ」
「では、明日行く前にお寄りください。案内して差し上げます」
ケイシーもジェラルドも、それは良いとばかりに賛同してくれた。