第59話 マクファーレン伯爵家からの帰り王宮の自室

文字数 1,346文字

 マクファーレン伯爵家へのご挨拶も無事に終わり、私達は帰路に就いた。
 馬車の中では終始無言、心なしかお父様もエイベルお兄様も厳しい顔をしている。

 私は理由を訊く事も出来ず、ただただ王妃様……とういか、お母様の隣に座っていた。
「さぁ、これで後は婚礼の儀を待つばかりね。マリー」
 重い空気を振り払うかのように、お母様が言ってくれた。正確に言うと、私達の婚礼の前にエド様の他のお二方の婚約の夜会が合同であるのだけれども。

「父上、マリーがこけない様にしっかりと支えて歩いてくださいね」
 エイベルお兄様が、お父様に言ってる。
「そんなに危なっかしい……な、そういえば。ああ、マリーはわたしにしっかりつかまって歩くと良い」
 お父様は、そんなに危なっかしくないだろう……と言おうとして、思い直してるわ。
「失礼だわ。わたくし、ドレスで歩いていて、こけた事なんてありませんわよ」
 ぷぅ~っと、ふくれて見せた。

 エド様の実家は実家で、解決しないといけない事があるのだろう。
 エド様は、親の地位を引き継いでいる訳では無いし、ご領地の方も改めて王室から下賜されたものだから何かあっても直接累が及ぶという事は無いのでしょうけど。
 ご実家の方で何か大きな問題が起きたら知らないでは済まされない事もあるわ。

「マリー、大丈夫よ。あなたが心配するような事は、すぐに解決するから」
 ふくれっ面の私に向かって、お母様は言ってくれる。
 お父様たちは、話の流れ的に、王宮で練習をさせてくれるのだろうと思っているのだろうけど、私だけは知っている。
 相変わらず王妃様は、私の心を読んでくるけど不思議と嫌だとは思わなかった。




 私たちを乗せた馬車は王宮に戻り、お父様とエイベルお兄様は連れ立って王妃様の執務室に向かって行った。
 私は、護衛の兵を付けられて1人自室に戻る。
 王宮の侍女たちがたくさん詰めているお部屋だけど、何だかホッとしてしまった。
 人間どんな環境でも慣れるのね。

 ケイシーがお茶を入れてくれる。
 ケイシーは、王宮侍女としての研修を終えて、先日戻って来たばかりだった。
「ふぅ~、やっぱり自分のお部屋で飲むお茶が一番おいしいわ」
「作法ばかり気にしていて、お茶を楽しんでないからですよ」
 ケイシーから、珍しくたしなめられる。
 
 私としたことが、うっかり本音を言ってしまったわ。
 ここの侍女たちや、今日行ったエド様のお屋敷のお茶が決して美味しくない訳じゃ無いのに。
「そうね。部屋でみんなに囲まれていると、うっかり本音が出ちゃうわ」
 気が抜けた感じで、私は言った。ここの侍女たちだけなら、のんびりしていられるって受け取ってもらえたかしら。

「今さら取り繕わなくても、大丈夫ですよ。ここにいるのは、王宮侍女と言ってもいつものメンバーです。マリー様に他意が無いことくらい皆知っています」
 エイダが溜息交じりにそう私に言ってきた。
「旦那様のご実家に行かれてお疲れなのですわ。今日は湯あみをして早くお休みなさいませ」
 そう言われて、湯殿に連れて行かれる。
 先ほどの演技とは違い、本当にのんびりとした気持ちになって私は早々にベッドへ入って熟睡してしまった。 
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