第36話 王宮 マリーのデビュタント前 エド側の話
文字数 1,830文字
『トム・エフィンジャー』事件の報告書を王室にあげて、すぐに王宮勤務を命じられた。
領地も落ち着き、マリーも自宅謹慎を命じたので、俺が領地を空けたところで大丈夫だろう。
もともと、戦争中はずっと執事のジュードが管理をしてきたんだ。
「――と言うわけで、しばらくは王宮勤務を命じられてしまった」
「まぁ、そうですの」
マリーにそう告げたら、少し寂しそうにしていた。
「お帰りは、いつになりますの? エド様」
「なるべく早く終らせたいと思ってはいるが……」
こればかりは、行ってみないと分からない。どうも、用件は今回の事件より……。
マリーは、ずっと一人……味方の侍女と家庭教師はいたけど……で頑張ってきて、肉親の愛情とは無縁のところにいた。
だからだろう、俺のような男にも懐いてくる。近所の子どもと一緒だ。
最初はギャン泣きしている子どもも、俺が怖い奴じゃないと知ると懐かれる。
マリーにとっての俺は兄的な存在なのだろう。でないと、キスをされてすぐに俺の腕の中で眠ったりは出来まい。
だから、唯一の保護者がいなくなると思い寂しがっているのだ。
「心配するな。デビュタント前には戻れるさ」
そう言って、マリーを慰めた。
王宮に着き、すぐに王妃の執務室に通される。
……いや、本当に特殊だと思う。どこの国の王妃が、自分の執務室を持っていると言うんだ。
「ああ。すまなかったね、領地の方は大丈夫かい?」
王妃は、親しい人間しか居ない時はずっとこんなしゃべり方だ。
まぁ、戦場で女性らしさを出して良いことなど一つもない。自然と態度も言葉使いも男みたいになっていった。
「大丈夫です。今までも、俺がいなくても何とかなっていましたから」
「そう。じゃ本題に入って良いかな」
「はい」
「ウィンゲート公爵が変な動きをしていてね」
「ちょっと待って下さい。俺は、貴族の諜報やそういうのには向かない人間です」
俺は慌てて、王妃の話を止めた。話を聞いてしまったら動かなければならなくなる。
「分かってるよ。何もエドマンドに解決してくれとは言わない。ただ、君のマリーが巻き込まれそうでね。どうせ、放っといても巻き込まれるんだ。ちょっと、利用させてもらえないかと思って……と、怖い顔がさらに怖くなってるよ」
真顔になっているのでは無い。俺は、ムッとしていた。
「マリー を利用するなんて言うからです」
「ちゃんとマリーにも、メリットはあるんだよ。デビュタントしたら、否が応でも社交界に出ないと行けなくなる。これは、どんな立場でもそうだろう? 君だって、嫌々でも社交をこなすじゃないか」
確かにそれは、そうなのだが……。
「マリーは、ウィンゲート公爵家での居場所が無い。ウィンゲート公爵の方は、マリーのデビュタントの用意をきちんとするだろうとは思う。内心どう思っていても、今は自分の娘と言うよりは、君の報奨品だからね。ただ、あの屋敷を仕切っている愛妾と侍女達はそうじゃない」
「まともな支度が出来ないと……そういう事ですか」
「だから、マリーのデビュタントの支度は全てこちらでするよ。ドレスや小物、侍女も必要な使用人も全て用意する。そして、そうだな……王太子殿下の婚約者のご友人になってもらおう」
それで、どうかな? って顔をされても……。まぁ、社交界での地位は約束されたものだろうけど……。
「ゲンナリした顔をするな。私だって、胃が痛いんだ。王太子 には、マリーが何をしでかしても笑って許してやってくれって言っておくから……」
「まぁ、それなら……。ああ、忘れるところでした。マリーが、助けて下さってありがとうございますとお礼を言ってました」
王妃が、キョトンとしている。
「ああ。あれか……自分を庇った人間が殺されそうになってたのだろう? 自分が危ないときは助けてって、願わなかったのに……だけど、あれの所為で『トム・エフィンジャー』に目を付けられた。気を付けた方がいいぞ」
初耳だ、マリーはそんなこと一切言わなかった。
「話は、それだけだ……。後の事は、おいおい打ち合わせをしていこう。
それと、ジョールとピーターと一緒に、騎士団の方の選別を頼めるかな」
ああ、『トム・エフィンジャー』の手下が入り込んで無いかどうか……か。
「かしこまりました」
俺は、礼を執って王妃の執務室を退出した。
領地も落ち着き、マリーも自宅謹慎を命じたので、俺が領地を空けたところで大丈夫だろう。
もともと、戦争中はずっと執事のジュードが管理をしてきたんだ。
「――と言うわけで、しばらくは王宮勤務を命じられてしまった」
「まぁ、そうですの」
マリーにそう告げたら、少し寂しそうにしていた。
「お帰りは、いつになりますの? エド様」
「なるべく早く終らせたいと思ってはいるが……」
こればかりは、行ってみないと分からない。どうも、用件は今回の事件より……。
マリーは、ずっと一人……味方の侍女と家庭教師はいたけど……で頑張ってきて、肉親の愛情とは無縁のところにいた。
だからだろう、俺のような男にも懐いてくる。近所の子どもと一緒だ。
最初はギャン泣きしている子どもも、俺が怖い奴じゃないと知ると懐かれる。
マリーにとっての俺は兄的な存在なのだろう。でないと、キスをされてすぐに俺の腕の中で眠ったりは出来まい。
だから、唯一の保護者がいなくなると思い寂しがっているのだ。
「心配するな。デビュタント前には戻れるさ」
そう言って、マリーを慰めた。
王宮に着き、すぐに王妃の執務室に通される。
……いや、本当に特殊だと思う。どこの国の王妃が、自分の執務室を持っていると言うんだ。
「ああ。すまなかったね、領地の方は大丈夫かい?」
王妃は、親しい人間しか居ない時はずっとこんなしゃべり方だ。
まぁ、戦場で女性らしさを出して良いことなど一つもない。自然と態度も言葉使いも男みたいになっていった。
「大丈夫です。今までも、俺がいなくても何とかなっていましたから」
「そう。じゃ本題に入って良いかな」
「はい」
「ウィンゲート公爵が変な動きをしていてね」
「ちょっと待って下さい。俺は、貴族の諜報やそういうのには向かない人間です」
俺は慌てて、王妃の話を止めた。話を聞いてしまったら動かなければならなくなる。
「分かってるよ。何もエドマンドに解決してくれとは言わない。ただ、君のマリーが巻き込まれそうでね。どうせ、放っといても巻き込まれるんだ。ちょっと、利用させてもらえないかと思って……と、怖い顔がさらに怖くなってるよ」
真顔になっているのでは無い。俺は、ムッとしていた。
「
「ちゃんとマリーにも、メリットはあるんだよ。デビュタントしたら、否が応でも社交界に出ないと行けなくなる。これは、どんな立場でもそうだろう? 君だって、嫌々でも社交をこなすじゃないか」
確かにそれは、そうなのだが……。
「マリーは、ウィンゲート公爵家での居場所が無い。ウィンゲート公爵の方は、マリーのデビュタントの用意をきちんとするだろうとは思う。内心どう思っていても、今は自分の娘と言うよりは、君の報奨品だからね。ただ、あの屋敷を仕切っている愛妾と侍女達はそうじゃない」
「まともな支度が出来ないと……そういう事ですか」
「だから、マリーのデビュタントの支度は全てこちらでするよ。ドレスや小物、侍女も必要な使用人も全て用意する。そして、そうだな……王太子殿下の婚約者のご友人になってもらおう」
それで、どうかな? って顔をされても……。まぁ、社交界での地位は約束されたものだろうけど……。
「ゲンナリした顔をするな。私だって、胃が痛いんだ。
「まぁ、それなら……。ああ、忘れるところでした。マリーが、助けて下さってありがとうございますとお礼を言ってました」
王妃が、キョトンとしている。
「ああ。あれか……自分を庇った人間が殺されそうになってたのだろう? 自分が危ないときは助けてって、願わなかったのに……だけど、あれの所為で『トム・エフィンジャー』に目を付けられた。気を付けた方がいいぞ」
初耳だ、マリーはそんなこと一切言わなかった。
「話は、それだけだ……。後の事は、おいおい打ち合わせをしていこう。
それと、ジョールとピーターと一緒に、騎士団の方の選別を頼めるかな」
ああ、『トム・エフィンジャー』の手下が入り込んで無いかどうか……か。
「かしこまりました」
俺は、礼を執って王妃の執務室を退出した。