第9話 みんなへのお土産とベアトリス様とのお茶会

文字数 2,132文字

「これで、全部かしら?」
 私はケイシーとベッキーに確認をした。
 この二人には、昨日お土産の下見をお願いしていて、エドと私で最終確認をしたところだった。
 エドは、私に任せると言って横にいてくれただけだったけれど。
 そんなこんなで今日は、お屋敷の使用人たちへのお土産を購入したの。
 原産地のものというよりは、実用的なものばかりだけど、こういう機会でも無いと買って上げれない物ばかりだもの。
 女性陣へのお土産の手荒れ用のクリームなんて、庶民にはまだまだ手の届かない贅沢品だものねぇ。

 買った物は、とりあえずお店の人に頼んで、お義兄様のお屋敷に運んでもらえるようにしているわ。
 後は、こちらへのお土産を運んできた馬車で私たちの領地に運ぶの。

 先に必要な買い物を済ませたら、後は自由に観光用の街を散策した。
「本当に露店のアクセサリーで良いのか?」
 初めて買ってもらった時よりは、戸惑っていないようだけど一応エドは私に訊いてきた。
「だって、領地で普段使いにするのですもの。あっ、これ。エドの瞳の色に似てますわ」
 日にかざすと、飴色になってとても綺麗。普通にしていると濃い茶色なのに、不思議よねぇ。
「わたくし、これが良いです」
 私が勢いよく言うと、エドが溜息を吐いているのが見えた。
 ダ……ダメだったかしら。
「変わらないな。マリーは」
 そう言いながら、エドは露店の店主に代金を払っていた。
 そして無言で私の手からネックレスを取って、着けてくれた。
「ありがとうございます」
 笑顔でお礼を言う。少し顔が熱い。
 だって、ネックレスを着けてくれる時、ふんわり抱きしめるような感じになってしまったのだもの。
 エドは平気そうだけど、私はまだドキドキしてしまうわ。

 やっぱり、王都で買ってもらった時とは違うのね。
 あの時は、ただ買って下さったものを渡してくれるだけだったもの。
 
「ん? どうした?」
 立ち止まって考え込んでいると、エドが振り向いて私に手を差し伸べてくれた。
 その手を取ると少しきゅっという感じで握ってくれ、私に合わせてゆっくり歩いてくれる。
「なんだか……」
 そう、なんだかとても
「幸せだなぁって、エドとこういう風にしていられて」
 ぼーっと、しゃべってしまっていた。
「ああ。そうだな」
 敬語が外れてしまっているのに、エドは気にもしない。
 多分、そのうち普段でもこんな風に話せるようになるのかしら……。

 観光地で気を抜いて歩いてはいけない場所だとは思うのに、エドと一緒だと安心しきってしまうわ。
 そして、何でだろう? こんな平和がつかの間の事だと思ってしまうのは……。




 お昼には、お義兄様(にいさま)のお屋敷に戻って来たの。
 明日は帰路に就かなければならないので、昼からはのんびりとお茶会をする予定だったのだけど……。

「本当に殿方は、仕方のない事。こんな時にまで、仕事をしようとするのだから」
 ベアトリス様は愚痴の様に言っているけど、お顔は笑っていらしゃるわ。
 本当に、仕方のない子どもたちね。という感じを漂わせている。
 いや、子どもでなく旦那様方だからね。

 まぁ、でも。
 エドも誘われたら、そそくさと行ってしまうのだから……。
 領地を見てまわりたくてうずうずしてたのだわ。
 そうよね。以前、英雄仲間のジョール・フォーブズ様を嬉々として領地案内に連れて行っていたもの。
「仕事というより……単純に好きなのかもしれませんわ」
 私はついつい本音を言ってしまっていた。
「そうでしょうともね。わたくし達の相手をするより余程楽しいのでしょう」
 ベアトリス様も、私の本音に合わせてなのか、そんな事を言っている。

 そして、私たちは顔を見合わせて笑ってしまっていた。
 ベアトリス様は、貴族社会では珍しく(しん)から人が良い感じがする。
 その分、少し弱い気もするけれど。
 お歳を訊くのは失礼だけど、多分、王妃様よりも少し上、位なのかしら。

「先日は、ごめんなさいね。初対面なのにあのような態度をとってしまって」
 あのようなって、あまり心当たりは無いけどマクファーレン家のお家の問題に巻き込もうとした事かしら。
「いえ。わたくしは」
 気にしておりません。と続けようとしたのだけど。
「王都の屋敷の件は、わたくしの息子の為にも早々に片を付けなければならないのですけど」
「ご子息の方?」
 いや、いても当然と言うか、いない方がおかしいのに、つい驚いてしまった。

「ええ。そうなんですの。わたくしには3人の息子がいて、一番下は慣例通り騎士団に入っておりますが。上の二人は、王都にある学園に通っていて、寮で暮らしております」
「まぁ。優秀なのですね」

 学園って、三つあるうちのアレだよね。
 卒業したら、王室や公爵の執務室勤務の文官になれるっていう。
 かなり、狭き門だと聞いたことがある。

「優秀かどうかはともかく。卒業するまでには、何とかしなくてはとは思っているのよ」
 私は少し心配そうな顔をしてしまったのかしら、ベアトリス様が続けておっしゃられた。
「大丈夫よ、わたくしもマクファーレン家当主の妻ですもの。今シーズンは、王都の屋敷に入りますわ」
 ベアトリス様は、そう言ってにこやかに笑うけど、私は、何て言って良いのか分からず紅茶に口を付けた。
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