第23話 悪人たちの総元締めの話
文字数 1,473文字
ビリーと名乗った青年は、まだ傷による熱がある状態で暴れたようだった。
騎士団に取り押さえられた時に、傷口も開いてしまっている。
正確な年齢や名前などわからない、いわゆるストリートキッズという親のいない子供たちで、元締めと呼ばれる悪い大人たちの指示のもと、盗みやいろいろな悪事を働いていた。
ビリーもそのうちの一人だと言う。
港町にも、孤児を保護する施設があったはずだが、食べるものも満足にないようなひどい状態なのだとか。
多くの貴族は、庶民の生活に無関心で決して珍しい事でもない。
孤児院の子どもたちが、親がいるときと同様に暮らせている、エド様の領地が特別なのだ。
「失念していたな。早急に手配をしなければ……。こちらから、職員を派遣しよう」
エド様は、ジュードに指示をしていた。
施設の職員を変えなければ、お金を出しても改善されない事を経験から知っているのだろう。
元締めの方は、騎士団の騎士たちに指示を与えている。
その様子を、ビリーは震えながら見ていた。
「ビリー。一つ訊いて良いかしら?」
私はビリーの怯えようから、一つの可能性を見いだしていた。
だって、ビリーは青年と言ってもいい年頃だ。
間違いなくストリートキッズのリーダー格だろう。
その彼が、元締めを怒らせたくらいで、こんなに怯える事はないと思う。
そして、エド様に『あんたじゃ、太刀打ち出来ない』と彼は言った。
「もしかしてあなたを追っていたのは、元締めでは無くて、悪人たちの総 元 締 め が命じた者たちでは無いの?」
「なんでそれをお前が知ってんだよ。貴族のお嬢が知っているようなことじゃないぞっ」
ビリーが、私に向かって叫んだ。確かにその通りなのだけど。
今度ばかりは、ギョッとしてエド様も私の方を凝視する。
悪人たちの総元締め、『トム・エフィンジャー』
本名か偽名かは、定かではない。
彼が活躍しだしてから数百年は経っているから、もう何代目になるのだろう。
代々、同じ名前を名乗っている悪人たちの総元締め。
貴族の……特にうちのような代々死の商人をやっているような家の人間は皆知っている。同業の……商売敵だからだ。
どこに潜伏してるのかと思っていたら、こんなところにいたのか……って感じである。
私は、内心ため息をつく。
「エド様。確かにわたくしたちの手に負えるような人物ではありませんわ。捕縛ではなく、密かに取引をして速やかに港町を出て行ってもらう道を模索した方が賢明かと存じます」
「何か知っているのか? マリー」
エド様が訊いてくる。動揺しているのか、珍しく周りが見えてない。
「そちらの騎士団の方々も、ここでのことは……ビリーの事も含め、他言無用に願いたいのですが、よろしいでしょうか?」
騎士団の騎士たちも動揺している。自分たちの上司の方をみて指示を仰ごうとしていた。
少しでも、この話が漏れて噂になったり、万が一にでもうちの父や王室に知れることがあったら、この領地が戦場になってしまう。
その表現が大げさでないことを実演して見せる気はもうとうない。
「わたくし、マリー・ウィンゲート公爵令嬢の名において、この場のすべての人間に命じます。このことは、一切外に漏れぬように。もし違 えることがあれば、ウィンゲート公爵家の制裁を覚悟なさい」
私の家名を使った命令に、その場の全員が……エド様まで、跪いて礼を執っていた。
…………ごめんなさい、エド様。
騎士団に取り押さえられた時に、傷口も開いてしまっている。
正確な年齢や名前などわからない、いわゆるストリートキッズという親のいない子供たちで、元締めと呼ばれる悪い大人たちの指示のもと、盗みやいろいろな悪事を働いていた。
ビリーもそのうちの一人だと言う。
港町にも、孤児を保護する施設があったはずだが、食べるものも満足にないようなひどい状態なのだとか。
多くの貴族は、庶民の生活に無関心で決して珍しい事でもない。
孤児院の子どもたちが、親がいるときと同様に暮らせている、エド様の領地が特別なのだ。
「失念していたな。早急に手配をしなければ……。こちらから、職員を派遣しよう」
エド様は、ジュードに指示をしていた。
施設の職員を変えなければ、お金を出しても改善されない事を経験から知っているのだろう。
元締めの方は、騎士団の騎士たちに指示を与えている。
その様子を、ビリーは震えながら見ていた。
「ビリー。一つ訊いて良いかしら?」
私はビリーの怯えようから、一つの可能性を見いだしていた。
だって、ビリーは青年と言ってもいい年頃だ。
間違いなくストリートキッズのリーダー格だろう。
その彼が、元締めを怒らせたくらいで、こんなに怯える事はないと思う。
そして、エド様に『あんたじゃ、太刀打ち出来ない』と彼は言った。
「もしかしてあなたを追っていたのは、元締めでは無くて、悪人たちの
「なんでそれをお前が知ってんだよ。貴族のお嬢が知っているようなことじゃないぞっ」
ビリーが、私に向かって叫んだ。確かにその通りなのだけど。
今度ばかりは、ギョッとしてエド様も私の方を凝視する。
悪人たちの総元締め、『トム・エフィンジャー』
本名か偽名かは、定かではない。
彼が活躍しだしてから数百年は経っているから、もう何代目になるのだろう。
代々、同じ名前を名乗っている悪人たちの総元締め。
貴族の……特にうちのような代々死の商人をやっているような家の人間は皆知っている。同業の……商売敵だからだ。
どこに潜伏してるのかと思っていたら、こんなところにいたのか……って感じである。
私は、内心ため息をつく。
「エド様。確かにわたくしたちの手に負えるような人物ではありませんわ。捕縛ではなく、密かに取引をして速やかに港町を出て行ってもらう道を模索した方が賢明かと存じます」
「何か知っているのか? マリー」
エド様が訊いてくる。動揺しているのか、珍しく周りが見えてない。
「そちらの騎士団の方々も、ここでのことは……ビリーの事も含め、他言無用に願いたいのですが、よろしいでしょうか?」
騎士団の騎士たちも動揺している。自分たちの上司の方をみて指示を仰ごうとしていた。
少しでも、この話が漏れて噂になったり、万が一にでもうちの父や王室に知れることがあったら、この領地が戦場になってしまう。
その表現が大げさでないことを実演して見せる気はもうとうない。
「わたくし、マリー・ウィンゲート公爵令嬢の名において、この場のすべての人間に命じます。このことは、一切外に漏れぬように。もし
私の家名を使った命令に、その場の全員が……エド様まで、跪いて礼を執っていた。
…………ごめんなさい、エド様。