第43話 マリーのおもてなし メアリーの本音 マリーの不安

文字数 1,862文字

「難しいわ。メアリー様、本当は何がお好きなのかしら……」

 もう、お客様が到着して丸2日経っていた。
 エド様は、戦友であるジョール様のお相手をして領地巡りをしている。
 ジョール様はとても気さくな方で、戻ってきたら私にまでお土産を渡してくれる。エド様より女性慣れしているのかもしれない。じゃなくて……。
 
 私の方は、何もおもてなし出来ていない。
 メアリー様は、何を話しても、何を聞いても「はい」か「いいえ」しか言わない。
 しかも、お顔はずっと下を向いている。
 そういえば、以前の英雄様たちのパーティーでこの子も陰口叩かれてたっけ……お顔が地味だのなんだの。それで、自信が持てないのかなぁ。

 それに、好きだと聞いていた、刺繍の話も……流行の刺繍を見せても、一緒に刺繍でもと言っても一向に興味を示さない。
 ……本当に、好きなの? 私が、出来なさそうなものを言ってみただけ? いや、出来るけどね、貴族令嬢のたしなみだと言って……思い出したくないけど。
 しびれを切らした私は、エド様を通じてジョール様に許可を取った。

 というわけで、少し丘になっているいつもの草原である。
 嫌がるメアリー様のコルセットを奪い取り……ってわけじゃないけど、私と同じワンピースとショートブーツで連れ出していた。
 もちろん、ケイシーも一緒に付いてきている。ここに来る前に雑貨屋にも寄って、ジンジャービスケットも購入済み。
「気持ち良いでしょ? メアリー様」
 メアリー様は、少し息が上がっている。でも、下は向いてなかった。
「はい。でも……その……」
「なあに?」
「この服……というか、コルセットが無いと恥ずかしい……です」
 メアリー様のお顔が少し赤くなっている。はやい速度で歩いた所為かと思っていたけど。

「大丈夫。村娘はコルセットなんかしてないから、誰も気にしないわ。さっ、座って」
 ケイシーが敷いた敷物の上をメアリー様に勧めた。おずおずと座っているけど……地べたなんか、座ったことないでしょうしねぇ、公爵令嬢様は……って私も同じだっけ。

 私はメアリー様にジンジャービスケットを渡し、ケイシーは紅茶をポットからティカップについで渡していた。ホッと一息ついたように、紅茶に口をつける。
 ジンジャービスケットの方も、サクッといわせて食べている。
「おいしいですわ」
「でしょう? でも、良かったわ。お口に合って」
 そう言って、私も手に持っていたジンジャービスケットを食べ始めた。もちろん、ケイシーも……。

 メアリー様は、食べ終えたらしばらくボーっとしていた。だけど、ボーっと前を向いたまま、ボソッとつぶやく。
「ジョール様は、わたくしのどこをお気に召したのかしら?」
 私は、思わずメアリー様の方を向いた。少し泣きそうで……はかない感じがする。
「父も驚いていたの。社交界への顔見世くらいにしか、考えていなかったから……」
 前を向いたまま、独り言のように言った。

「わたくしよりは、マシだと思うわ」
 今度は、え? という感じでメアリー様の方が私を見てる。
「覚えてるでしょう? わたくしの逆プロポーズ。エド様なんて、選べる立場だったのに、わたくしの所為で選べなくなったのよ」
「あ……」
 メアリー様はそういえばと言う感じで、声を出していた。なんと言って良いのかは分からないみたいだけど……。
「なのに、エド様はわたくしに優しくして下さるわ。だから、せめてエド様の役に立とうと思って、頑張ってるの」
 私はニッコリ笑ってそう言った。不安が無いわけではない。
 私たちの婚姻は王妃命令だから、エド様も逆らえない。だから、私に優しくしているのかも知れない。正妻に子どもを産ませるのも当主の義務だ。

「メアリー様は、報奨品だとは言え、選んで頂いたのでしょう? 相手がどんなつもりでも自信を持って良いと思いますわ」
 メアリー様は、少しはにかんだように、私を見て笑った。
「はい……。そうですね。本当にそうだわ。わたくしも、マリー様のように頑張ってジョール様に少しでも好きだと思って頂けたら」
 メアリーがそう言いかけたときに、街道からエド様とジョール・フォーブズ様がこちらに上がって来ていた。
「エド様~」
 私はいつも通り手を振る。
「マリー、やっぱりここだったか」
「今日は、港の領地の方に行かれていたのですか?」
「ああ。今日からしばらく、あちらを案内するから、多分この時間にここを通るぞ」 
「そうでしたの。わたくしたちもこの時間にここに来ようかしら……」
 それも良いわね、と、本気で私は考えてしまったのだった。
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