第28話 ボブとサマンサの関係(マリーの妄言?)

文字数 1,175文字

「そうですのよ。わたくし、孤児院の管理を任されたのは初めてで、今、こちら側と港側に事あるごとに通って、勉強している最中ですの」
「そうですか」
「その時に、上の学校やこちらの訓練場の話になって、指導騎士様のお話になってしまいましたのよ」
「そうなのですね」
 女性の他愛もない雑談だと判断して、ホッとしているみたい。

「ええ。それがサマンサったら、あなたの名前が出た途端、すごく動揺して。足が悪く戦場に出れないから武勲が……なんて言っていたわ」
 私はクスクス笑いながら言うと、ボブは、何か喉に詰まったように咳込んだ。
 その様子にケイシーが、「大丈夫ですか?」と言ってハンカチを渡している。ボブは一生懸命辞退しているようだけど、苦しそう。

 呼吸が落ち着き、姿勢を正したところで、片付けが終わった子ども達がやって来た。
「ご指導ありがとうございました」
 ボブの前に並んで、ペコンと頭を下げ挨拶をしている。子ども達の中に、ドムとヘンリーも交じっていた。
「ああ。気を付けて帰れよ」
 ボブが子ども達に笑ってそう言うと、わらわらと走って帰っていく。きっと、お腹が空いているのね。と思ってその様子を見ていたら。
 一瞬だけ、ドムが躊躇(ちゅうちょ)したような感じで私を見たけど、ヘンリーと一緒に帰っていくようだった。

「それでは、私も失礼致します。今日は、見学に来ていただき」
 子ども達の姿が見えなくなるまで、見送った後ボブが私の前を辞する挨拶を始めたので
「ねぇ。あなた達、好き合っているの?」
 爆弾を落としてみた。
「それとも、サマンサの片思いなのかしら?」
 ん~っ、という感じでわざと砕けた口調で独り言のように言った。
 ボブは、固まってしまっているけど……。
「あっ、あの?」
 やっとの思いで口を開いたのか、少しボブの声はかすれていた。

「マリー。来てたのか」
 ボブの話をどう引き出そうかと考えていたら、エドが、建物の中から現れた。
「エド。お仕事は終わりましたの?」
「国境辺りは、今のところ平和だからな。それで、マリーは訓練の見学をしていたのか? もう、子ども達は帰ったようだが……」
「ええ。今日は、ドムとヘンリーの初訓練でしょう? 見学させて頂いてましたの」
 そうエドに答えてすぐに
「それより、わたくし、ボブとサマンサのラブロマンスを訊いてましたの」
 と話を振った。
 ん? という感じで、エドが私を見る。私の態度の違和感に気付いてくださったかしら。

「マリー。あまり、ボブを困らせるのではない。男は得てしてその手の話が苦手だからな」
 苦笑いしながらエドが言っている。なんだか、実感がこもっているわね。
 そう私に言った後、ボブの方を向いて
「マリーがすまなかったな。もう、業務に戻ってくれ」
 謝罪と指示を同時に出している。
 ボブは、ホッとしたような顔をして礼を執り、業務に戻るべく建物に入って行った。
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