第30話 サマンサとスウィングラー家 エド側

文字数 1,373文字

『女は何の脈絡も無く核心を突く』
 というのは何のセリフだったか……。

 マリーは俺と行動を共にする事によって、叔母のキャロライン・スウィングラーをけん制し、兄の妻ベアトリスにハッパをかけ、サマンサとボブの関係を何とかしようとしている。
 サマンサの事情に気付いているのか、いないのか。

 マクファーレン家のお家騒動には、なるべく関わらせたくないのだがな。
 そう思いながら、寝入ってしまったマリーの寝間着を整える。
 マリーは、少し身じろぎして、俺の腕の中に収まって安心したように寝ていた。
 
「こうしていると、まだ子どもの様なのに」
 つい、ため息交じりに呟いてしまった。

 サマンサは、叔母から付けられたスパイだ。
 スウィングラー分家の男爵令嬢サマンサ・アクランド。
 マクファーレン領に付いてきた時に、家名を名乗る事をやめて平民を装っていたが、アクランド男爵はサマンサを捨ててはいない。
 だから、本人が拝命した準男爵とは別に、未だに男爵令嬢だ。

 最初は、俺の縁談相手として叔母から紹介された。
 当時の俺は、騎士爵に就いたばかりで、男爵令嬢のサマンサと身分が釣り合うと思ったのだろう。
 だけど王室の許可は下りなかった。
 表向きの理由は、我が国、ハーボルト王国が下位貴族に政略婚を課していないという事だ。

 その実態は、王妃がスウィングラー侯爵を警戒し、自分の側近である俺に関わらせたくないという意向だったのだが。
 当時の俺は20歳になったばかりの若造で、簡単に取り込まれてしまっただろうから、王妃の判断は正しいと言える。
 結局、父親から領地を任された時には、使用人の一人としてサマンサをねじ込まれてしまったからな。

 その後、しばらくサマンサは俺の後を付いてまわり離れず、仕事に支障をきたし周囲からの評判は最悪だった。
 侍女長の指示も一切聞かず、俺専属の侍女のように振舞い始めたから屋敷から出さざるを得なくなり、孤児院を任せる事になった。
 運よくというか何というか、今迄任せていた女性が高齢で引退することになっていたので、その後釜にする事にしたのだ。
 
 どの領地でも孤児院の管理者は、一度、領主と共に王宮に向かい王室から正式に任命を受ける、その時に準男爵位も賜るのだ。
 いくらサマンサでも、いい加減な仕事は出来ないだろう。
 
 お屋敷への出入りも禁止した。
 その頃には、俺は伯爵位を賜っていたので身分差で仕事以外で、サマンサから話しかける事も出来なくなっていたのだがな。

 その内に、ボブが戦場でケガをして「子ども達の指導騎士として、残りたい」と申しでてきた。
 我が国の負傷兵への手当ては厚い。
 除隊しなければならなくなっても、生涯食うに困らないくらいの退職金が用意される。

 だからその頃には、もうサマンサとボブは恋仲になっていたのだろう。
 だから俺は承認して、マクファーレン家のお家騒動が治まるまではそしらぬ振りを続ける事にした。

 まだ、俺の愛妾を狙っていると思われた方が、お互い都合が良いからだ。
 ボブはともかく、サマンサは孤児院閉鎖後、スウィングラー家から連れ帰られてしまうからな。


 こんなに情報を与えなくても、マリーが核心にたどり着くのなら、少し説明せねばならないだろう。

「苦労をかけるな」
 俺は、マリーの額にそっと口づけ、そのまま抱き込んで寝ることにした。 
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