第49話 王宮 マリーのお部屋

文字数 1,800文字

 私たちは、王都入りをしてそれぞれの屋敷に戻った。私は今回王宮のゲストルームでは無い。王妃様の生活エリアにあるお部屋に通されていた……あれ?
 一緒に来たケイシーも、呆然としている。ケイシーが呆然としているところなんて、初めて見たから新鮮だけど。

 こちらのエリアの侍女頭だという人が私に挨拶をしてきた。
「お初におめもじ致します。わたくし、オリヴィア・フェザーストンと申します。僭越ながら侍女頭の任を賜ってございます。よろしくお願い申し上げます」
「世話になるわ。オリヴィア」
 オリヴィアがピクッと反応した。言いたいことはわかる。エイダは、感激してくれたけど。

「わたくしは、そばにいてくれる人は名前で呼びたいわ。それが王宮の礼に反していても……。だって、寂しいでしょう? せっかく、巡り合えたのに」
 私はにっこり笑ってそう言った。だって、普通の貴族令嬢は王族……それも王妃様の直属の侍女の姿を見る事すら叶わない。

 それに私は捨て置かれた令嬢。私のそばにはケイシーとリンド夫人しかいなかった。
 なのに今は、エド様の屋敷や領地の人達、王宮からの派遣部隊……たくさんの人達が私のそばにいてくれる。
 あのまま、捨て置かれたままだったら決して巡り合えなかった人達。

「では、わたくしもマリー様とお呼びしてもよろしいのでしょうか?」
「もちろんよ。よろしくね、オリヴィア」
「こちらこそよろしく申し上げます。ところで、ケイシー・オルコットをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「ケイシーを?」
「はい。このままでも王宮侍女としては申し分はないですが、少し……」
 ケイシーは、ピシッとして私の後ろに控えている。
「わかりました。よろしくご指導願います」
 私が何か言う前に、ケイシーはそう言って礼を執っていた。

 が……頑張ってね、ケイシー。


「ケイシーでも、再教育になっちゃうのね。王宮侍女として1か月ちょっと滞在しようと思ったら」
 ちょっと、近親感湧いちゃうわ。リンド夫人にガンガン再教育された私はそう思って、着替えさせてくれているエイダ達に言ったら
「王宮侍女は、侍女付きの個室を賜りますから、侍女や自分より下の立場の人間に対する振る舞いの指導だと思いますわ」
 と言われてしまった。
 侍女に侍女? ケイシー個室もらえたんだ。
 まぁ、ゲストルームみたいに、続きの間に控えるわけにはいかないものね。
 だけど、このお部屋もだけど続きの間もあって……ベッド無いから、ベッドルームもあるわね、きっと……。かなり、広くてちょっと落ち着かない。
いや……公爵家の私の部屋もこのくらい広かったっけ。広いお部屋に良い思い出が無いからかしら。

「マリー様も、王都に来るときはずっとこのお部屋を使う事になりますし、ケイシーもちゃんと」
「ちょっと、待って。何で? 私が次に王都に来るときはマクファーレン家のお屋敷では……」
「ああ。あちらはマクファーレン家のお屋敷であって、エドマンド様のお屋敷では無いですからね」
 私は混乱した。だって、前回だってエド様はあの屋敷に誘っていたのでは?
 混乱している私に気付いたのかエイダが言いなおす。

「王都のお屋敷は、エドマンド様のご実家なのですよ。ずっと、戦場にいらしたでしょう? 他の英雄の方々は王宮勤務ですので、ご自分のお屋敷を早々に建築されたのですが、エド様はどうせ王都には滅多に来ないからと、のんびりされていて……」
 なるほど、でも私はエド様の実家でも良いのだけれど……ダメなのかな? 
 ダメか……女主人の方がエド様のお母様だったらいいけど、そうで無かったらちょっとね。

 今日は到着した当日だからこのままのんびりだけど、明日は謁見の間でエド様と2人で挨拶をしないといけない。
 エド様は、今頃ご実家かしら? 王都に行ったらなかなか会えなくなるって、こういう事だったんだわ。

「マリー様。明日からのご予定ですが……」
 エイダが紙を見ながら言ってくる。部屋の中は、侍女や使用人。扉の向こうには護衛の近衛兵が立っている。
 
 常に複数の人目にさらされている状況。それはマクファーレン領でも、あまり変わらなかったけど、一人の時間が全くない訳では無かった。

 エド様に会いたいな。私は、今後の予定を聞きながらそう思うのであった。
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