第31話-1  王都再び ウィンゲート公爵家

文字数 1,469文字

 その日は、マクファーレン辺境伯家のお屋敷から、馬車が何台も連なって出た。
 護衛の騎士の数もかなり多い。
 領民達が、珍しい王宮御用達の馬車を見ようと、こぞって街道に集まって来ていた。

 まずは、リンド伯爵領に戻るリンド夫人の馬車。
 リンド夫人は、こちらの領地に来るときにウィンゲート公爵家の契約期間から王妃様の直雇いに変わっていたようで、本来ならありえない王宮の騎士団の方々が護衛に付いていた。

 そして私とケイシーを乗せた馬車と王宮の侍女達を乗せた馬車が出立する。
 目的地は同じ王都。こちらにも王宮の騎士団の方々の護衛が付いた。
 こちらに来るときの、騎士団の方々は辺境警備にあたる騎士達だったので、ついでだと思っていたのだけど……。
 私が、ウィンゲート領から王都に出るときは、申し訳程度の私兵が付いただけだったので、その異様さがわかる。
 まぁ、私の方は王宮付き侍女達の護衛するついでなんだと思うけどね。

 というわけで、マクファーレン辺境伯領に来たときと同様に、一週間かけて王都入りを果たした。王都に入って、王宮の侍女達の馬車と別れたのだけれど、なんと私たちが乗った馬車もお屋敷まで騎士達が護衛をしてくれた。
 騎士の方が先触れ役を買って出てくれていたので、敷地内に入り玄関まで行くと、父の愛妾ジャネット・オルブライトとその息子クレイグ、そして使用人達が待っていた。
 従者が馬車の扉を開けて、私とケイシーを降ろしてくれる。

「まぁ、マリー様。おかえりなさいませ。マクファーレン辺境伯領地からの遠路、さぞお疲れの事でしょう」
 ジャネット様が一歩前に出て、にこやかにねぎらいの挨拶をしてきた。
「ありがとうございます、ジャネット様。お気遣い無用ですわ。お部屋に荷物を置いたらすぐにお父様にご挨拶したいのですが、書斎でよろしかったかしら」
 私もにこやかに挨拶をする……けど、すっかり女主人気取りなのね。

「ええ。マリー様の帰宅を心待ちにしているようですわ」
 ジャネット様、何かあると言わんばかりの愛想の良さだわ。
 今出て来ている使用人は、ジャネット様の取り巻きなのね。皆、つんとしているわ。
 クレイグ……お兄様も、私を見ても知らん顔しているし。
 まぁ、私から愛妾の息子に挨拶する義理もないから……。

 先触れや護衛の騎士の手前、出迎えの対応は何とか型通りに終らせて屋敷の中に入った。
 約半年ぶりなのだけど、前回は一日しかこちらに泊っていない。
 エド様の婚約者になって、最後の夜会で婚約披露するからと、ずっと王宮に泊っていたもの。

「マリーお嬢様、大丈夫です。ケイシーが付いています」
 ケイシーが思わずそう言うほど、私態度に出てたかしら……。

 前回来たときは、この冷ややかなお屋敷の空気も気にならなかったのに、エド様の領地が懐かしい。いやいやいや、まだ来たばかりで、お部屋にもたどり着いてないのに懐かしいって何よ。

 執事に案内され、自分の部屋に向かう廊下で、会いたくない人に会ってしまった。
「久しぶりだな、マリー。デビュタントの為に王都に来たか」
「お久しゅう存じ上げます。エイベルお兄様」
 私は、習った作法通りドレスのすそを持ちお辞儀をする。リンド夫人に仕込まれたように、優雅に見えるよう。
「ああ、エスコートは俺だから……。せいぜい、恥をかかせないようにしてくれよ」
 エイベル兄様かぁ、仕方無い。デビュタントのエスコートは身内で、余程のことが無い限り、次期当主が努めるのだから。
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