第8話 そして、マクファーレン辺境伯家の領地へ

文字数 1,632文字

 王都を出て、馬車に揺られて一週間。

 いい加減、疲れが出て来た。
 貴族のご令嬢がいるのに、野営をするわけにも行かず、遠回りでも宿場町があるルートを通っての長旅である。
 ちなみに騎士団の方々だけなら、早駆けで1昼夜、のんびり行っても3日も掛からない道のりでなのだそうだ。

「わたくしもそれで良かったのに。野営、してみたかったな」
 馬車の中で、私は身体の疲れに任せて、ダレた感じに座ってそう言っていた。
「冗談じゃ、ありませんよ。旦那様だけならまだしも、騎士団の方々もいらっしゃるのですよ。殿方に囲まれて寝ていられるものですか」
 私の何気ないつぶやきに、リンド夫人が憤慨している。

 ケイシーも、溜息を吐いて言う。
「そうですねぇ。マリーお嬢様はともかく、私たちは寝ずの番をしなければならなくなりますからねぇ」
「そうなの? よく分からないけど、あなた達が大変になるのなら、諦めるわ」
 騎士団の方々と一緒なのの、何が問題なのか分からないけど……。
 ボーッと馬車の窓から、お外を見ていると馬が一頭近づいてきた。
「もう少ししたら、領地だ」
 エド様が、馬を馬車と併走させながら、言ってきた。

 無造作な森を抜けると、整えられた草原や林、畑が有り水路が引かれている。道は石畳で舗装され、川があって橋が架かり、その向こうに村が見えてきた。
 なんだか、色とりどりで可愛い造りになっている。領地に入った所でエド様は、馬車の馭者と他の騎士達に指示を与えて、ゆっくり進みだした。
 村には小さな子どもも、お年寄りもいる。速い速度で入っていったら、驚かせて怪我をさせてしまうかも知れない。多分、そんな配慮をしたんだと思う。

「素敵ねぇ。のんびりとして、村も可愛らしいわ。あれは雑貨屋さんかしら。ここの雑貨屋にも、ジンジャービスケットがあったら良いわねぇ」
 領地に入ったところで、私の疲れも吹き飛んだ。
 だって、新しい生活よ。ワクワクするわ。どんな人がいるのかしら。
 まずはお屋敷の人と仲良くやっていって、その内に町やあの、走りやすそうな草原にも、林にも行ってみたいわ。

「ジンジャービスケットって、お屋敷で焼いて貰ったら良いじゃないですか」
 ケイシーが呆れたように言ってくる。
「違うのよね~。お屋敷のとは、何かが……。ほら、うちの領地の雑貨屋さんの娘さんが焼くジンジャービスケット、ものすごく美味しかったじゃない」
「そういえば……そうでしたね。ああ、でもあれは……」
 ケイシーは、何かを言いかけてやめた。

「ああ。あれじゃ無いですか? お屋敷。王都ほどの豪華さは無いですけど、大きいお屋敷ですよね。4階? 5階までありますよ」
 すご~いって感じで、ケイシーが言ってきた。
「まぁまぁ、ケイシーまで何です。マリーお嬢様じゃあるまいし」
 リンド夫人は、(たしな)めるようにケイシーに言っていた。
「中々無いわよねぇ。田舎の領地で、5階建てのお屋敷って。王都じゃ、珍しくも無いみたいだけど」
 王都の建物って、高いものねぇ。首が痛くなったもの。
 そう言っていると、お屋敷の玄関口の所で、馬車が停まり扉が開く。
 扉を開けたのは、使用人では無く。エド様だった。

「マリー。我が家へようこそ。今日から、ここが君の家だ」
 私は、エド様のエスコートで馬車を降りた。
「ありがとうございます。末永くよろしくお願いいたします。エド様」
 降ろされた先で、私はドレスのすそを持ち上げ、お辞儀する。
 ふと馬車の方を見ると、リンド夫人とケイシーが使用人に手伝われて降りていた。

「マリー・ウィンゲート様。わたくしは、この屋敷の執事をさせて頂いております。ジュード・ウォリナーと申します。長旅で、さぞお疲れの事でしょう。まずはお部屋の方に、ご案内させて頂きます」
そう私に言って、マクファーレン辺境伯家の執事は、とても綺麗な執事としての礼を執った。
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